歴史教科書国定化、左翼史観の横溢に対処
目に余った親北反韓記述
韓国では歴史教科書の国定化をめぐって朝野を挙げての大騒ぎとなっている。それに比べれば、日韓首脳会談や慰安婦問題の進展などが小さく見える程だ。
韓国ではこれまで歴史教科書は検定・認定制だった。教育部の検定を通った複数の教科書から選択されてきたのだ。これは日本と同じである。
ところが、次第に左翼理念傾向の強い教科書が増え、韓国政府の「正統性」までが歪められる事態になって、政府は国定制導入に踏み切った。もともと韓国の教科書は国定だったが、いったん自由化したものの、あまりにも理念的偏向が激しくなって、また元に戻したのだ。
その背景には「左翼史観」の台頭がある。1970年代中盤まで、近現代史は歴史学者の関心外だったという。ネットメディア「趙甲済(チョカプジェ)ドット・コム」記者の金泌材(キムピルジェ)氏が、「歴史教師左傾メカニズム解剖」の記事で指摘している。
金氏は、「1970年代後半になって、運動圏(学生運動)出身学者が朴正煕政府を打倒の対象にしながら、韓国近現代史に関する研究が活気を帯び始めた」という。彼らの研究活動は、「既得権階層に対する批判的観点を持った者」と「維新体制で弾圧を受けた批判的知識人」と結合して、左派的民衆史観を形成していった。歴史学会にこうした傾向が浸透していくと、教員試験を受けるための予備校でも、左翼史観が教えられるようになる。
「月刊朝鮮」(11月号)は「韓国史教科書の何が問題なのか」の記事で、左傾教科書のデタラメぶりを指摘している。中でも韓国政府の正統性に関わるのは、「大韓民国政府樹立」としながら、北朝鮮は「朝鮮民主主義人民共和国樹立」としている点だ。何が問題かといえば、南では「政府」が樹立され、北では「国」が樹立されたという解釈なのだ。彼らにとって韓国は「国」ですらない。
北朝鮮の独裁、弾圧はいまや疑いのない世界に広く知られた事実だ。しかし、自国の李承晩(イスンマン)・朴正煕(パクチョンヒ)政権には「独裁・弾圧・抑圧」と書きながら、金日成(キムイルソン)が行った粛清や独裁に対しては「権力強化」「権力独占」と表記する。いったい、どの国の教科書か分からない。
こうした教科書が出てくるのも無理はないのである。「6種の歴史教科書執筆陣に参加した9人の教授のうち8人が左派指向で、28人の教師の中で9人が全教組(日本の日教組に相当)出身だった」と趙甲済氏は同誌に書いている。
趙氏は、国定化に反対して、「一つの歴史的事実を別の観点で解釈して討論するのは文明国の普遍的常識」とした中央日報の李夏慶(イハギョン)論説主幹のコラムに対して、実際の教科書は「反大韓民国的記述で画一化されていた」と皮肉る。
北朝鮮の強制収容所、公開処刑、核実験、大韓航空機撃墜事件(1983年)、ラングーン事件(同)、天安艦爆沈事件(2010年)など、北朝鮮について記述するなら漏れることのない事件が記されてない教科書が多い。逆に北体制を賛否する一方で、南に対する「自虐史観」が横溢している。
趙甲済ドット・コムに、「教科書の左翼イデオロギー感染症」を書いたイ・ガンホ氏は、「青少年に酒とたばこを許す国はない。成人でも麻薬は禁止する。左翼イデオロギーに溢(あふ)れた教科書を幼く精神的に未熟な生徒たちに押し込むのは、青少年に酒タバコどころか、麻薬を無理強いすることと同じだ」と指摘している。
韓国の民主化と繁栄と北朝鮮の独裁と困窮を見れば、既に体制の勝負はついている。しかし、それでも北を美化する韓国側の心理的背景には、国家の「正統性」についての後ろめたさがある。「独立」を勝ち取った(と主張する)のか、植民地から一方的に解放されたのか、国家の「出自」が今も問われており、そこに理念的対立が持ち込まれているのだ。韓国の歴史論争はしばらく収まりそうもない。
編集委員 岩崎 哲










