潘基文待望論、次期韓国大統領候補に名
「二元的政府制」論が浮上
外交、南北、経済、何もかもうまくいかない韓国の朴槿恵(パククネ)大統領には、早くも「レイムダック」化が囁(ささや)かれている。同時に政界ではまだ2年先になる大統領選に向けて、早くも候補探しや“助走”が始まっている。
韓国では政権が変わると、たとえ同じ党から後継者が出ても、前任者が「断罪」されるケースをよく見てきた。自ら後継者を指名しても、引退後が安心できないのが韓国政治だ。
与党セヌリ党内は大雑把に「親朴系」と「非親朴系」に分かれており勢力は拮抗している。来年の総選挙を前にして、党執行部と大統領府が「公認権」で綱引きを演じているのも、大統領の党内基盤が弱いことから生じていることだ。
金武星(キムムソン)党代表は次期大統領を狙う一人だ。総選挙で自派閥を拡大し、政局の主導権を握りたい。これに対して、親朴系は別の青写真を描いているという。憲法を改正して、大統領の「任期を現在の5年から4年に短縮し、再任を可能」にしようというのだ。これは、「朴正煕(パクチョンヒ)元大統領と朴槿恵氏の“偉業”を継承させる」ため、朴槿恵氏の再登板に備えるというシナリオである。
総合月刊誌「月刊中央」(11月号)に、同誌の朴ソンヒョン取材チーム長による「親朴系の一部で飛び交う長期政権プラン」の記事が掲載されている。この中で注目すべきは、次期大統領候補に潘基文国連事務総長の名が挙がっていること、与党内で「大統領と国務総理(首相)による“二元的政府制”」が取りざたされていることだ。
潘基文事務総長の名前はたびたび浮上してきている。しかし、与党内でも「政治基盤がなく、国会議員の経験もない潘氏では無理」との見方が支配的だ。ところが、同誌は与党の親朴系の中に、次期政権構図に潘基文氏が組み込まれるシナリオがあるという。
ある親朴系の「策士」は、「大統領になるには、ストーリー、マニア、拡張性の三つの要素が必要だ」と指摘する。政治家に成長するまでの立志伝、強固な支持基盤(ファン層)、中間層の投票者を掴む拡張性、である。
潘基文氏の「貧しい田舎で生まれながら、高校時代、英語弁論大会で入賞し、訪米した折、ジョン・F・ケネディ大統領に会い、外交の世界に飛び込み、外相を経て、世界を舞台にする国連のトップに上った」という経歴は、「叙事的感動を与える」ものだという。
「彼のストーリーを見て、20代30代の若年層が潘氏を嫌うだろうか? 大統領の徳性や資質は置くとしても、彼は大統領になる客観的条件を備えている人物の1人だ」と策士は語る。
さらに「忠清待望論」がある。これまで大統領を排出してきたのは金大中(キムデジュン)大統領の全羅道を除けば、慶尚道が多かった。忠清道はキャスチングボートを握りながらも、自ら大統領を輩出するには至っていない。金鍾泌(キムジョンピル)元首相が最も大統領に近かったが、最終的に届かなかった。
条件はそろっているように見える。しかし、素人目に見ても外務官僚出身で国連事務総長をしたからと言って、議員経験のない人物に韓国の大統領が務まるかは疑問である。前述したように、与党内でも評価は高くない。「結局、潘基文は中途半端な大統領適任者」という評価が大統領周辺からも出てきているのもそのためだ。
そこで、浮上するのが「外交・安保・統一など外部の政治を大統領が行い、国内政治は首相が担当する」という「二元的政府制」論である。潘基文氏を“つなぎ”にして、朴槿恵氏を「次の次に復帰」させる。そのためには政治基盤のない「潘基文大統領」は外交・安保に専念させ、国内政治は党が主導して、時間を稼ぐ、というものだ。
なんとも都合のいい話だが、それで収まらないのが韓国政治である。「李相敦(イサンドン)中央大名誉教授」は、「潘基文でさえも、大統領になれば完全に他人になるだろう」と予言する。与党の言いなりになり、朴槿恵氏の“失政”を追及しないという保証はないという話だ。潘基文大統領も二元的政府制も、朴大統領退任後は大幅減少か消滅と言われている親朴系の“奇策”にすぎないのか?
編集委員 岩崎 哲