慰安婦問題で観測気球、日本政府関係者の話を解説

日本政府関係者の話を解説

 日韓関係が悪化したまま膠着(こうちゃく)状態に陥っている。日本側からは積極的に改善に動き出そうとはしていないようにも見受けられる。対韓関係をしばらく放置しておこうという気配すら感じられる。

 それに対して、韓国側はやや深刻だ。経済面ではボディーブローのような打撃を受けているが、それは厳密には日韓関係悪化が大きな要因ではない。円安ウォン高が響いていることと、韓国側の財閥への一極集中の産業構造の変革が遅れているためだ。

 しかし、日本人観光客の大幅な減少は観光関連産業を直撃している。韓国側は減少の理由を「円安のため」と説明しているが、韓国を除く他の国々への日本人観光客は増えていることをみると、円安は理由になり得ない。理由は「反日」が大きく作用していることは明らかだ。

 いずれにせよ、悪化したままの日韓関係を放置しておくことはできない。改善の糸口はどこにあるのか、日本側からもシグナルがでており、韓国側も責めるばかりでは何も解決しないことに気付き始めている。

 元「月刊朝鮮」編集長で韓国保守派を代表するジャーナリストの趙甲済(チョカプチェ)氏が主宰するサイト「趙甲済ドットコム」に「慰安婦問題解決のための日本の立場」という記事が掲載された。

 これは日韓関係の最大の障害となっている「慰安婦問題」について、「日本政府関係者」の話を聯合ニュースが報じたものを紹介・解説したものだ。

 日本側が示したという内容は以下の4点。①これまでの日本の努力を韓国が認定②米国内の慰安婦像除去③今回が本当に最後という確信を韓国が保障する④道義的次元の追加謝罪と補償は別にしても、法的責任と賠償は無理―というものだ。

 ①について、河野談話や「アジア女性基金」「被害者医療費支援」が全く意味がないという評価であれば、「それを繰り返すのは不可能」ということだ。

 ②は、在米日本人子弟がいじめに遭うという憂慮もあり、撤去されなければ、新しい解決策を出しても意味がない。

 ③は、大統領が誕生するごとに「これ以上謝罪は求めない」と宣言しながら、政権末期にレームダック化してくると、いとも簡単に言を翻し「反日カード」を切るというパターンが繰り返された。「いつまで謝ればいいのだ」という「謝罪疲れ」が日本側にある。

 ④は、「日本政府が軍慰安婦問題が法的には完全に解決されたという見解を変えることは難しく、法的責任以外の可能な範囲で解決策を模索」するということだ。

 日本側の見解が通信社の配信記事やサイトの解説で紹介されることは、これまであまりなかったが、ここまで日本側の「本音」を伝えるようになったのは、政府が「韓国民の説得」をし始めたことを表している。一種の「観測気球」である。

 韓国人の中には「これまでの日本側の努力」を知らない者が多い。政府もメディアも伝えてこなかったからだ。ここに来て、「実は日本側もこういう努力をしてきた」と伝えておかないことには、今後の交渉や合意について、国民の同意を得られない恐れがある。

 もともと、「軍慰安婦」は日韓交渉時に、韓国側が議題にさえ入れなかったものだ。当時、これを問題視していなかったために基本条約と共に結ばれた「請求権・経済協力協定」に含まれなかったのだ。

 強制徴用補償は、協力協定の「5億㌦経済支援」の中から韓国政府が解決すべき問題だった。最近になって、その仕組みが国民にも理解され、韓国政府に対して補償を求める訴えも起こされている。

 こうした交渉を行ったのが朴槿恵(パククネ)大統領の父、朴正煕(パクチョンヒ)大統領であることが、朴大統領にとって「不都合な事実」として立ちはだかっている。日韓交渉の“不備”が今日の問題を引き起こしているとなると、朴大統領の立場は悪化せざるを得ないからだ。

 最近の上記のような報道は日韓の相互理解には役立つが、朴大統領追及の材料にもなり得るから、朴大統領は頭が痛いだろう。

 編集委員 岩崎 哲