韓国民の高高度ミサイル迎撃防衛体系批判

中国の顔色窺う事大主義/邪魔する「不純集団」が存在

 韓国で高高度ミサイル迎撃防衛体系(THAAD)の導入をめぐって、大きな議論が続いている。昨年10月にも本欄で取り上げたが、その状況は少しも変わっていない。

 朝鮮日報社が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(2月号)が朴輝洛(パクフィラク)国民大学校政治大学院教授による「THAADの誤解と真実」を掲載した。

 朴教授は、「北朝鮮の核ミサイルを防御する能力がない韓国に、それを防御できるTHAADを米国自身の費用で配備しようとしているのに、韓国民は反対している。外国人には理解できないのではないか」と、現在の状況の異常さを伝える。

 確かに外から見れば理解しがたい。韓国人の論理はこうだ。「配備に中国が命がけで反対している」「中国と米国は戦争も辞さない」「そうなると戦場は、間の韓国になる心配がある」ということなのだそうだ。言い換えれば、韓国人は中国の顔色を窺(うかが)い、その逆鱗(げきりん)に触れないよう細心の注意を払っているということだ。

 朴教授は「事大主義」というが、いまだに韓国が心理的に中国を意識し、自ら呪縛に入っていくような態度や行動を取っていることには驚かされる。もっとも、韓半島が置かれている地政学的位置と、それから来る歴史的体験を考慮すれば、過剰過敏な反応を示すことも理解できないわけではない。

 ところが、THAAD配備に限っては、もともと曲解、歪曲(わいきょく)による誤解を唆(そその)され、それが解けてもなお反対を続けている、というから厄介だ。朴教授はこれに対して、「韓国が核ミサイル対応能力を具備できないように邪魔をしている」一部の人々がおり、彼らは「不純集団の指図を受けているのではないか」と疑われる、と疑問を呈する。

 ではその「不純集団」とは誰か。しかし、この追求は記事の主題ではなさそうで、朴教授はそれ以上踏み込んではいないのが残念だ。「誤解と真実」を見てみる。

 第一に「THAADは万能の兵器ではない」ことだ。「迎撃射程距離は200㌔㍍、高度は150㌔㍍」と、「地域次元」の兵器であること。

 第二に、反対派の「米国を狙う中国ミサイルに対応している」という懸念について、朴教授は、中国が米大陸に向けて弾道弾を発射すれば、韓国上空は飛行ルートとはならず、さらに射程高度150㌔㍍のTHAADでは2000㌔㍍上空を飛ぶ大陸間弾道弾の打撃は不可能だと説明する。

 第三に、THAAD発射に必要なXバンドレーダーの性能は中国の軍事基地を裸にするほどの探知能力も目的もないこと。

 第四、「中国が激烈に反対している」というが、韓国の学者やメディアが中国側の一言片句に過剰反応したに過ぎず、中国は公式にTHAADに反対を表明していないこと。しかし、常万全国防相が「反対」し、邱国洪駐韓大使が「憂慮」を示していることについて、朴教授は、「THAADの正しい性能が明らかでない段階での反応」だとして、中国側の「誤解」を指摘している。

 第五として、「韓国には不必要だ」との論があるが、「高度40㌔㍍のスカッドには効用価値が制限されるが、高高度で飛行するノドンミサイルには必要だ」と反論した。

 最後に「費用」だが、韓国側の負担が増えるとの心配に対して、「まったく根拠のない話」と切って捨てた。

 その上で、朴教授は、「韓国動乱で奇襲参戦して統一の機会を壊し、『東北工程』で歴史を侵奪し、一方的に防空識別圏を設定し、北朝鮮の核開発と保有を黙認している中国を批判しない」にもかかわらず、「一度も韓半島への領土的野心を抱かず、韓国動乱に参戦して共産化を防ぎ、その後も同盟として韓半島防衛の措置を講じている米国を批判する」韓国知識人に対し、その「現実性や平衡感覚」に強い疑問を投げかけ、彼らの態度は「事大主義以外には説明できない」と断じている。

 「もっとも至急な北朝鮮の核ミサイルに対する対策」となるTHAAD配備は、結局のところ、韓国のみならず、日本、中国、米国の利益に合致し、ひとり北朝鮮のみに脅威となることをみれば、配備に反対する勢力の正体は明らかである。朴教授はこのことを暗示しているが、暗示にとどまるところが、韓国論壇の“限界”なのだろう。

 編集委員 岩崎 哲