安倍首相が気になる韓国

在米・劉氏が変化に着目/「日本再生」する強力な政権

 韓国の安倍晋三首相を見る視線は複雑だ。「慰安婦」「歴史認識」であれほど攻撃してもビクともしない。自らの主張を1㍉たりとも譲らず、「歴史に逆行」して「右傾化の歩み」を進めている。

 アベノミクスで経済指標は上向き、韓国、中国を除いた世界各国を廻って外交を展開し、国民からの政権支持率も高止まりしている。安倍首相を否定し攻撃する韓国政府やメディアからすれば、これらは信じがたい現象だ。独立後の韓国が出会った最も手強い日本の政治指導者が安倍首相だろう。

 「月刊朝鮮」(10月号)に「安倍の独走時代が開かれた」が掲載されている。米ワシントンで選挙コンサルタントをしている劉敏鎬(ユミノ)氏による記事だ。劉氏は、この欄でもしばしば引用するが、松下政経塾(15期)を出て、経済産業省研究員を務めた日本通である。米国を拠点に日本と韓国を眺める観点には定評がある。

 劉氏は、第2次安倍内閣の布陣を見て、「途方もない変化」を感じ取ったという。「最小限10年先を見通した日本の行方を第2次安倍内閣を通じて見ることができる」とし、「日本再生」が単なるスローガンではない、と述べる。

 往々にして韓国人の対日本観は優越感とコンプレクスによって歪み曇ったものが多く、自分に都合のいい解釈が勝って、客観的視点に欠けるものが多い。「日本が大きく変わるとき、韓半島の知識人の大部分は彼らを無視した」(劉氏)というふうに。

 だが、その一方で、無視から一転、極端に振れて日本を過大に評価するケースもある。こと、経済をテーマにするとこの傾向が強くなる。

 劉氏は経済テーマでなく、政治テーマで、まして韓国で不人気な安倍政権について、その変化に着目しえたのは、劉氏が米国から日韓両国を見ている適度な距離感と客観性が作用したものだろう。

 劉氏は自民党総裁の任期に注目した。総裁任期は3年(2期まで)である。このまま安倍総裁が続いて、再任すれば、2018年12月まで、その席にあり、同時に首相の座にある可能性が高いということだ。

 高支持率が続き、第2次内閣のように「安倍に逆らう人物が誰もいない」「安倍の考えを120%実現させる忠僕だけが布陣している」内閣が続けば、安倍首相が掲げる「日本再生」の道を驀進できる、というわけである。

 これを韓国から見たら、きわめて恵まれた政治的環境だと言える。韓国大統領は任期5年の単任制だ。最近になって、「5年間はいかにも短い」という議論が出てきているが、韓国大統領が自分色の政治を行える期間は短い。任期1年半も残せば、「レームダック」化する。最後に反日カードを切って政権浮揚を図るのが常だ。

 まして、接戦で選挙に勝ち、政権出だしの組閣で躓き、スタート早々に反日カードを使ってしまった朴槿恵(パククネ)大統領には早くも「レームダック」のレッテルがつけられているとあっては、安定政権を実現している安倍首相が羨ましいのは当然だろう。

 劉氏は「向こう10年間」と言った。安倍総裁の任期はあと4年を残すだけだから、当然ながら、この10年すべてが安倍政権と見ているわけではない。総裁2期目に衆院選を戦い、安定多数を維持し、新総裁に席を譲って、自らは「キングメーカー」に納まる。その際、2020年の東京五輪を成功させる布陣を敷き、五輪直後の衆院選で自民党政権を磐石にする、というシナリオを劉氏は描いてみせる。

 日本の政治評論家もそこまで遠くのことを見通せるものではない。だが、韓国人の観点から見た安倍首相は強力であり、ビクともせず、自分の道を貫き通す融通の聞かない人物だ。

 韓国では「安倍が続く限り、韓日関係の好転はありえない」という悲観論も聞かれ、劉氏の記事はそれを助長することになるだろう。だが、それは劉氏の狙いではない。むしろ、そろそろ「安倍とどう付き合うか」という観点に切り替えないかぎり、韓国には対日関係の打開策はない、ということを主張している。

 編集委員 岩崎 哲