米韓同盟に「東風41」の脅威
ミサイル防衛躊躇する韓国/中国の体面を考える思考
韓国が難しい立場に立たされている。ミサイル防衛(MD)システム導入をめぐって、同盟国のアメリカと、最大の貿易相手国となった中国との間に立たされ、双方の「顔を立てる」という困難な方程式を解かされているのだ。
中央日報社が出す総合月刊誌「月刊中央」(10月号)に、「韓中関係の時限爆弾『THAAD(高高度地対空迎撃ミサイル)』は炸裂するか」の記事が掲載された。国際問題アナリストの李長勲(イジャンフン)氏によるものだ。
米国は中国の核戦力拡大に危機感を募らせている。中国は現在、地上発射用130基、水中発射用48基のミサイルを保有しているが、8月に北米のほぼ全域を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風(DF)41」の存在を明らかにした。
これは米国にとって大きな脅威となる。米国防総省はMDの開発に拍車をかけ、2015年度国防予算でMD予算として74億5000万㌦、19年までに総額370億㌦という概算要求を出した。
核ミサイルの脅威は中国だけではない。北朝鮮は射程が1300㌔㍍のノドンミサイルを移動発射台から発射実験を行った。これは駐日米軍基地すべてを射程内に入れることができるという。
そこで米国はMDでもっとも肝要な敵ミサイルを識別探知するレーダー「Xバンドレーダー」の配置に力を入れる。同レーダーは「4800㌔㍍離れた所にある野球ボール大の金属物体まで識別することができる」という優れものである。
Xバンドレーダーが補足した識別情報をイージス艦に送る。レーダーとイージス艦が連動して、はじめて飛来する敵のミサイルを補足して撃墜できるわけだ。
中国、北朝鮮というミサイル「大国」と隣接する韓国ならば、MDは喫緊の課題と言っていいはずである。事実、米国は「韓国をMD体系の主要パートナーと見なし、積極的に参加を説得している」状況だ。
特に「最近、在韓米軍にTHAAD体系を配備することを検討し」、スパカロッティ在韓米軍司令官は国防総省にこれを要請したと明らかにした。さらに韓国のミサイル防衛体系(KAMD)と「相互運用」できるよう韓国に求めている。
ところが肝心の韓国が乗り気でない。まず、韓国を攻撃する北朝鮮ミサイルは20~50㌔㍍の低高度を飛行してくる。だがTHAADは「高高度」に対応するものだ。
そして最大の問題は「THAADを運営するためには必ずXバンドレーダーを設置しなければならない」という点だ。
これらの兵器体制は背中合わせの北朝鮮よりも、明らかに中国を意識した防衛体系となる。中国外交部の秦剛報道官は、「朝鮮半島にMD体系を配置するのは地域の安定と戦略的均衡に益しない」と反対した。
7月に訪韓した習近平中国国家主席は朴槿恵(パククネ)大統領との首脳会談でMD体系とTHAAD配置問題を取り上げて、露骨に牽制(けんせい)している。韓国のTHAAD配備を「韓中関係のマジノライン」と見なすと脅すことまでしているのだ。
これに対して、韓国は「MD体系が決して中国を狙ったものではない」と弁解するが、中国は「米国の敵包囲戦略」と見なして譲らない。Xバンドレーダーが韓国西海岸に配置されれば、「北朝鮮全域はもちろん、北京、上海、大連など中国の主要都市と軍事施設密集地域まで探知できる」とあっては、中国が反対するのは当然だろう。
いまや日本と米国を合わせた以上の貿易取引がある中国との関係悪化は、韓国に「経済的に途方もない打撃」を与える。
ここで韓国の思考は突然、歴史的中韓関係に舞い戻ってしまう。李長勲氏の出す結論は、日米にとって意外なものだ。「われわれは中国の対面を保てる方案を模索しなければならない。中国との軍事協力を強化したり、中国が推進するアジアインフラ投資銀行への参加なども考慮する必要がある」と提案する。
いくら経済的依存度が高くても、一方で米国と軍事同盟を結びながら、他方で中国との軍事協力を強化するということが成り立つかどうか。旧韓末に清(中国)、ロシア、日本を頼って右往左往した経験が生きているとは思われない。
編集委員 岩崎 哲