大統領を操る主体思想派
実態無視した対北政策推進
韓国で長年、北朝鮮研究を続けてきて今年退任した高麗大学北朝鮮学科の柳浩烈(ユホヨル)名誉教授を月刊朝鮮(4月号)がインタビューしている。
この中で柳教授は文在寅(ムンジェイン)政権の統一政策に「歴代最悪」の評価を下した。その理由を「大統領を操る集団」が、「北朝鮮の実態を無視して、偏向した理念に基づいた対北政策を行っている」からだと説明する。
この「大統領を操る集団」とは運動圏出身者たちを指す。運動圏とは1980年代の反軍事政権・民主化運動を担った世代で、北朝鮮の主体思想に影響を受けた核心部分を「主体思想派(主思派)」という。運動圏は彼らを核とした活動家集団で、運動に残る者と、社会の各界各層に浸透する者とに分かれ、今では政治、司法、メディア、学術、教育、労働、宗教など各界の核心層を形成している。
柳教授は、「彼らは過去の考え方を踏襲したまま、北朝鮮に対する偏向的な姿勢と同盟国に向けた歪曲(わいきょく)された視線を持って政策を動かしている」と指摘する。いわゆる「従北親中」「反日離米」という言葉が彼らの性向を端的に表す。
だから、北の核放棄が「詐欺」だと明らかになっているにもかかわらず、彼らは「過去にとらわれて北朝鮮の言動を善意だけで解釈しようと」するわけだ。「北朝鮮は地球上で最も現実的な行動をする集団」(柳教授)なだけに、韓国側のロマンチシズムが際立つ。
運動圏がなぜ“時代遅れ”になっても影響力が強いのかについて、柳教授の分析は明晰(めいせき)だ。「運動圏の思想的基盤は、過去には金日成にあったが、今は中国共産党と習近平になっている」と見る。つまり“崇拝”対象が、破綻した北朝鮮ではなく、「中国の夢」を掲げて「崛起(くっき)」する中国とその指導者習近平国家主席に置き換わっているのだ。「中国共産党が彼らに理念的正当性を付与してくれる」わけで、文政権の「親中離米」姿勢はここから来ている。
こうした文政権の姿勢とは違い、統一方策については柳教授は、「韓米同盟を土台に統一を成し遂げること」を第一に挙げる。政権中枢の本音とは真逆だが、「韓米同盟は選択の問題ではなく、死活の問題。同盟を諦める瞬間、統一どころか国家存立にも問題が発生する」との警告は重く響く。
この言葉が現政権に届くかは別にして、こうした研究者が韓国にいることはいくらかは希望でもある。
編集委員 岩崎 哲