文政権の「新経済構想」報告書の内容を暴露

北朝鮮支援の“裏道”を模索 抜け落ちた「非核化」の実現

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領はよほど北朝鮮を支援したくて仕方がないらしい。だが、問題は国連安全保障理事会による北朝鮮への制裁が今も継続していることだ。そこで、韓国政府はこれに抵触しない“抜け道”“裏道”の研究を進めてきた。

 それが、統一部(省に相当)が2020年3月に発注し、同年12月に納品された「新経済構想連携南北中・南北露協力モデル」という主題の研究報告書である。

 朝鮮日報社が出す総合月刊誌月刊朝鮮(4月号)がその全文を手に入れ、分析記事を載せた。「新経済構想」とは「2017年の大統領選の時から文在寅氏が主張した対北計画」をいい、一言で言えば、「南北を一つの市場として、経済活路を切り開いて経済統一基盤を構築する」というものだ。

 そして、具体策が細かく列挙されているが、特徴としては、中国とロシアがこの構想の重要な構成員として組み込まれていることである。

 一例を挙げると、「観光協力」の分野では、「超国境観光プログラム」として、「白頭山観光(中国)・沿海州カジノ団地(ロシア)・マスゲーム・大同江ビール祭り・平壌マラソン(北朝鮮)」をつなげる観光商品を「開発・推進する」としている。

 また「ロシア(ザルビノ・ウラジオストク)・中国(琿春)・北朝鮮(羅津・元山)・韓国(束草・釜山)に寄港する環東海(日本海)クルーズ」と、「中国(天津・大連・青島)・北朝鮮(南浦)・韓国(仁川・済州島)に寄港する「環西海(黄海)クルーズ」で、この東西のクルーズを連結させる「U字型クルーズ」という構想まで描いている。

 実現すれば、大学の探検部や冒険部などが喜びそうな企画だが、実際は、まったくの画餅にすぎない。政府が金(予算5000万ウォン)を出してまで、実現の望めない夢物語を書かせた意味が不明だ。それに、予算が約490万円とはかなり少ない。本気で「新経済構想」を樹立しようと考えたのだろうか。

 そして、いずれにしても制裁違反になることは明らかで、緩和や解除の見通しすら立たない段階では「捕らぬ狸(たぬき)の皮算用」である。さらに、奇異なのは、この構想では日本が完全に外されていることだ。もっとも文政権が日本を組み入れた計画など立てるわけはないが、環日本海の観光と言えば、見どころは圧倒的に日本にあるし、中国人、韓国人が大挙して押し掛け、このクルーズは盛況を見せるはずなのに、惜しい。

 協力分野は観光だけでなく、保健医療、鉄道輸送、海上輸送、ガス管連結、学術、経済、等々、さまざまな分野を網羅し、中国が推進する「一帯一路」への参加も必須だとしているのも注目である。

 文大統領の目は「いかに北を支援するか」に集中していることから、北が馴染(なじ)みやすい中国、ロシアを含ませることで、まずは、貝のように殻を閉じた「北朝鮮の“変化”を引き出す」ことが狙いだ。このところ、北の拒絶が激しいが、文大統領の思いは熱い。

 しかし、当然ながら、同誌はこの構想の実現性に疑問を投げ掛ける。国際社会が求めている「非核化」の実現がすっぽり抜けているのだ。報告書では「米国を説得する必要」を認めながら、その具体策がない。

 同誌は「今、集中しなければならない分野は『北朝鮮非核化』であり、『対北制裁緩和・解除』ではない」と強調する。しかも「『金正恩の非核化意思』はすでに『詐欺』との結論が出て久しい」とし、北への制裁が「続くほかない」と断じる。

 だが、同報告書の内容は既に李仁栄(イイニョン)統一相らの発言に反映されている。「国際社会の共感が形成されるなら、非商業用公共インフラのような分野で、もう少し制裁の柔軟性が拡大するのも望ましい」と李長官は英誌に語っている。

 これに対して、米シンクタンク「民主主義防衛財団」のマックスウェル上級研究員は、「金正恩政権の悪意のある行動と不法行為を公開的に容認しようとするものなのか、質(ただ)したい」と反論した。

 報告書自体は公表されてはいない。月刊朝鮮は「同報告書の内容が公開された時、米国と国際社会は果たしてどんな反応を見せるだろうか」と記事を結ぶ。この“暴露”記事で文政権の対北政策が問われることは必定だ。

 編集委員 岩崎 哲