韓国メディアの「日本引用」
自ら言えない内容を代弁
韓国メディアはしばしば日本メディアを引用する。自ら言えない内容を代弁させるためだ。何かと問題の多い文在寅政権に対して、面と向かって批判することは、政権からの圧力や、その意を受けたマスコミ労組が強い今の韓国では相当に難しい。そこで、この手法が取られるのだ。
安倍晋三首相に対する韓国内でのイメージは非常に悪い。最近では「反日」ではなく「NO安倍」が集会を埋め尽くしている。実際の安倍首相はどのような韓国観、文在寅観を持っているのか、韓国メディアを見る限り、本当の安倍首相像は分からない。
月刊朝鮮(1月号)が日本の文藝春秋(12月号)にNHK記者が書いた記事を紹介する形で、安倍首相、トランプ米大統領、そして文大統領の関係を伝えている。おそらく韓国読者が初めて知る実像ではないだろうか。
それによれば、安倍首相は当初、文大統領に対して憂慮を持っていたが、対話を通して、「意外に冷静な対話をすることができるかもしれない」という期待に変わった。しかし北朝鮮のミサイル発射を受けて「制裁」か「制裁と対話」かで日米と韓国との間に溝ができ、安倍首相の期待も失望に転じて「不信」に変わっていったと紹介されている。
これ以降、日韓の間では自衛艦レーダー照射、慰安婦合意破棄、朝鮮出身戦時労働者(いわゆる「徴用工」)判決、輸出規制、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)など、次々と「不信」を深めるような問題が生じ、日韓関係は「戦後最悪」に陥った。
韓国報道を見ている限り、一方的に「日本が悪い」ということばかりが伝えられがちなため、実際にそのとき、日本側は、安倍首相はどういう理由でどう対処していたのかは知る由もない。これは日本情報封鎖に加えて、最近では日本に理解を示したり、日本側の事情を説明するだけでも「土着倭寇(わこう)」のレッテルを貼られ、「反日狩り」に遭うため、メディアが自己規制あるいは萎縮しているためだ。
そこで「引用」という手が出てくる。しかも日本の“権威ある”総合月刊誌にNHKの記者が書いているとなれば、信用度としてはかなり高い。こうして「日本が報じている」という言い訳を前面に出して、自らではできない報道をする韓国メディアのスタイルが定着するというわけだ。
今では東京駐在記者も多く、ネットも発達し、技術的障害はほとんど取り除かれた。だが政治的心理的な“規制”はいまだに働いている。それを回避する方法としての「日本引用」はそれなりの機能を果たしていると言っていいだろう。
編集委員 岩崎 哲





