天下分け目の韓国総選挙 「銃を持たない内戦」状態

自由統一か赤化統一かの選択

 韓国で4月に総選挙(国会議員選挙)が行われるが、現地では今後の“国体”を決する「天下分け目の決戦」と捉えられている。何がそれほど重要な選挙なのか。

 東亜日報社が出す総合月刊誌新東亜(1月号)で、全相仁(チョンサンイン)ソウル大教授が「このままでは保守野党は左派与党には勝てない」との見通しを示し、盧武鉉(ノムヒョン)政権で国会予算政策処長を務めた崔洸(チェグァン)氏は「保守挙兵論」を打ち出して、一様に、文在寅(ムンジェイン)左派政権が勝てば韓国の将来は危うい、と警鐘を鳴らした。

 「歴代どの選挙に比べても“歴史的な”選挙になる公算が大きい」「銃を持たないだけで事実上の内戦」「不吉にも光復(解放)直後の現代政治史を想起させる」「今後の大韓民国の存立有無を考えさせる」

 これはいずれも全教授の指摘で、「銃のない内戦」とは穏やかでないが、この選挙によって、韓国自身が日米ら自由陣営に属する自由保守の国であり続けるのか、左派色を一層鮮明にし、対中露外交に軸足を移し、従北親北をより強くして、南北統一に向かって速度を上げるのかの分岐点にもなり得るとの認識が根底にある。

 崔氏も同じだ。「自由民主主義か人民民主主義か、自由統一か赤化統一かを分ける重大な選挙だ」として、「自由か隷属かの選択」とまで言う。

 野党が与党を攻撃すれば、極端な言葉が飛び出してくるものだが、韓国が自由陣営を離れ、赤化統一していくとなると簡単に聞き流すわけにはいかない。与党・共に民主党(以下民主党)の勝利がどれほど“危険”なのかを知っておく理由がここにある。

 民主党は「政権を取ったときから、今回の総選挙に焦点を合わせてきた」と全教授は言う。与党や大統領府補佐官の主流を成すのが“運動圏”と呼ばれる1980年代、左派学生運動に携わってきた世代で、彼らは政界だけでなく、司法、教育、労働、メディアなど社会各層の底辺に入り込んで、時間をかけて力をつけ、今や社会の主流を構成するに至っており、その彼らが満を持して臨む総選挙だということだ。

 同誌が伝えるのは、そこまで準備万端で民主党が臨んでいるのに対し、保守野党の自由韓国党(以下韓国党)には「権力への飢えがない」(全教授)という点だ。「権力とはいつも当然自分のもの、という歴史的錯覚」の中で、「与えられた特権や運命のように認識してきた」ために、「権力の創出と再生産に対する激しい悩みと真剣な省察をした記憶がない」(同)のである。「新しく変わったゲームの法則に無関心で鈍感だった」と全教授は手厳しい。

 ここで不思議なのは数々の失政にもかかわらず、文政権が一定の支持率を保っていることだ。その理由は前述のような運動圏出身で社会の各層に地位を占めた鉄板の支持者がいることと、彼らが共通の目的のために政権を支え、総選挙に臨もうとしているからだ。

 さて、こうした状況で野党に勝機はあるのか。崔洸氏は鉄板とはいえ、左派が少数であること、社会主義は人間の本性・自由を制限しようとし、結局失敗していることを正しく国民に伝えるべきだと強調する。「保守は正しく左派を批判してこなかった」のだ。

 大半の国民は以前と変わらず、外交で言えば日米韓の同盟・協力関係を維持していこうとしているし、対北関係でも、拙速を避け、無暗な援助をすべきでないと考えているのだが、政権はまったく逆の方向にアクセルを踏んでいるという、まさに分裂状況が出来(しゅったい)している。

 保守的な雑誌である新東亜が総選挙を前に、韓国の分裂状況を明らかにし、保守陣営に決起を促すというのは頷(うなず)けるものだが、問題は肝心の保守陣営が一つにまとまって、鉄板の左派陣営に対抗し得る勢力になり得るか、という点だ。

 総選挙は左派文政権がもくろむ憲法改正、その後の南北統一政策を遂行する上で、必勝を期すべき重要な選挙であることは間違いなく、またそれを阻止しようとする保守陣営にとっても、極端だが政党としての生死が懸かった選挙といってもいい。

 選挙結果は政権の外交にも影響が及ぶ。特に戦後最悪と言われる日韓関係に直接反映してくることは明白で、関心を持たざるを得ず、同誌の記事は韓国保守の現状と課題をよく伝えている。

 編集委員 岩崎 哲