スリランカ連続爆破テロ ISが犯行声明

従来型テロから一変…

 日本人を含む359人もの命を奪い、500人以上が負傷したスリランカの連続爆破テロ事件で、100人以上が死亡したのが西部ニゴンボの聖セバスチャン教会だった。ポルトガルの植民地時代を象徴するニゴンボがターゲットにされたこと自体に、今回のテロの背後が霞(かす)んで見える。
(池永達夫)

憎しみの負の連鎖断ち切れ

 国際空港から車で1時間ほどでしかないニゴンボには3度、訪問したことがあり、聖セバスチャン教会にも足を踏み入れた。

リセナ大統領(中央)

爆弾テロが起きたネゴンボの教会を訪れるスリランカのシリセナ大統領(中央)=23日(AFP時事)

 ポルトガルの植民地化以降、ニゴンボはカトリックが多数派を占め、聖メアリー教会始め多くの聖堂が林立し「リトル・ローマ」と評されるほどだった。今でも20以上ものカトリック教会が存在する。無論、仏教寺院やヒンズー寺院も少なくなく、多宗教が共存する代表的な都市だった。

 ニゴンボでは、そのカトリック教会が標的になった。50年前に建てられた聖セバスチャン教会では、キリストの復活祭(イースター)が祝われ、礼拝堂には200人ほどが一堂に会していた。その歴史と人々の日常を切り裂くような暴力だった。また今回の連続爆破テロは、コロンボの五つ星ホテルも自爆テロのターゲットになるなど、キリスト教徒と外国人が狙われたのは明らかだ。結局、外国人の死者は30人を超えた。

 これまで外国人を標的にする凶悪テロは、同国で10年前まで続いた内戦時にも見られなかったことだ。海外のテロ集団とも関連したイスラム過激派が疑われている。海を渡って、仏教国スリランカに浸透したとすれば、憂慮すべき事態だ。ISが犯行声明を出したが、政府は事件に国際テロ組織の支援があったとみて23日、全土を対象に非常事態宣言を出し、全容解明を急ぐ構えだ。

 スリランカではヒンズー教徒で少数派のタミル人の武装勢力「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE)と政府の内戦が続き、爆弾テロを繰り返してきた経緯がある。結局、四半世紀続いた内戦で死亡者は10万人を超えた。

 昨年来、仏教徒がイスラム教徒を襲撃する事件が発生したり、仏教徒過激派がキリスト教徒脅迫も伝えられる中、今回の同時多発テロは、どれにも当てはまらないもようだ。LTTEの攻撃対象は専ら軍施設などで、今回のような警備の手薄なカトリック教会などが狙われたテロは、LTTEの手口とは明らかに違う。

 スリランカ政府筋によると、事件前、スリランカ東部を拠点とするイスラム過激派「ナショナル・タウヒード・ジャマア」(NTJ)が教会を標的にした自爆テロを計画しているとの報告が、インド情報機関からもたらされていたとされる。ISの影響を受ける隣国モルディブの過激派が多数、流入したとの報道もある。

 スリランカでは仏教徒が70%、ヒンズー教徒が13%、イスラム教徒が10%、キリスト教徒が7%と多様性に富む。

 仏教発祥の地インドから、仏教が海外に最初に伝わったのがスリランカでもあり、今でも仏教は国民の大多数を占めている。ただ、イスラム教徒やキリスト教徒も、どちらも少数派に属する両者間に、これまで大きな衝突も軋轢(あつれき)もなかった。

 こうしたことからテロが海外から持ち込まれ、外部から扇動された可能性が指摘されている。

 宗教的に複雑な同国の構造ながら、これまで共存の道を模索してきたスリランカで、テロを契機に不信の溝が深まり不安定化しないよう、国際社会は注意深く見守る必要がある。少なくとも憎しみと誤解が増幅されていく、負の連鎖の泥沼に足をとられてはならない。