ナンバープレートを大型に 比のバイク犯罪防止法
フィリピンでは「ライディング・イン・タンデム」という言葉が殺人の手口を示す代名詞として定着している。もともとはバイクなどの乗り物に2人乗りすることを指す言葉だが、バイクに2人乗りした犯人による銃撃事件のことで、被害者の多くは車に乗っているところを狙われ、逃げる間もなく蜂の巣にされる。これを重く見た議会は、バイク犯罪防止法を可決させ、このほどドゥテルテ大統領が署名し正式に法制化した。
(マニラ・福島純一)
危険、無意味…利用者は反発
同法の内容はバイクのナンバープレートを大型化し、さらにバイクの前部にも同じものを装着するというものだ。現地では数も大きさも2倍になることから「ダブル・プレート法」などとも呼ばれている。これにより、より遠くからでもナンバーが認識でき、犯人の検挙率アップに繋(つな)がるという理屈だが、バイク利用者や愛好家から猛反発の声が上がったのは言うまでもない。
最も目立つ反対意見は、そもそも犯罪者は犯行に使用するバイクにナンバープレートなど付けないということだ。仮に取り付けられていたとしても盗難品であったり偽造である可能性が高く、ナンバープレートの大型化はライディング・イン・タンデムの防止に繋がらないというわけだ。
また、市販バイクはこのような鉄板を前部に安全に装着するようなデザインにはなっていない。当然のように前部にはライトなどの照明が集中しており、ナンバープレートの装着が困難なことは素人目にも容易に想像できる。
あるバイク団体の代表は、大きなナンバープレートが外れて宙を舞い、歩行者などに当たる危険性を指摘。大型化したナンバープレートにより空気抵抗が増し、風の強い場合などバイクの安定が損なわれるという懸念もある。
ナンバープレートの大型化は、一般的なバイク利用者の危険を招き、財政的な負担を掛けるだけという批判が出るのは当然のことだ。24日にはマニラ首都圏で、大規模な抗議集会が開催され約5万人のライダーが集結した。
そもそもライディング・イン・タンデムの横行には、バイクを取り巻く行政の怠慢も大きく影響している。ナンバープレートの製造がまったく追い付かず、新車を購入しても何カ月も受け取れないという状態が慢性化しているのだ。街にはナンバー無しや仮プレートのバイクが走り回り、中には手書きだったり、日本のナンバープレートを模したものをオシャレ感覚で装着している車両まである始末。
この混沌(こんとん)とした路上の状況こそがバイク犯罪が横行する原因なのだが、あまりに恒常化しているためなぜか問題視されない。ライディング・イン・タンデムは、このような行政の怠慢が横行させたとも言える。
フィリピンでも監視カメラの普及が進んでおり、行政が設置したもののほかに、個人や店舗の防犯目的のものなどに犯行の様子がバッチリ記録されているケースも多い。そのような映像がニュースで毎日のように流れており、ライディング・イン・タンデムの犯行の様子が捉えられていることも少なくないが、逮捕に繋がるケースは稀(まれ)であり、抑止になっているとは言い難い。要するにナンバープレートの認識は大きな問題ではないのだ。
あまり有効とは思えない法制だが、とにかく行政側としては犯罪対策として新制度を導入したという成果が必要で、さらにそこに生じる新ナンバープレートの利権を手にしたいという目的も透けて見える。若いころに大型バイクを乗り回していたというドゥテルテ大統領が、なぜこんな法制を容認したのか謎である。
さらにナンバープレートだけでなく、運転免許証の発行遅延も問題になっており、犯罪対策以前に行政サービス全般の正常化が国の大きな課題となっている。このような国民の負担や利便性が蔑ろにされる理不尽な社会構造こそが、犯罪や汚職の温床になっているような気がしてならない。国民へのしわ寄せをまったく考慮しない今回のダブル・プレート問題は、その縮図と言えるだろう。