マニラ国際空で町長銃撃、9人死傷の惨事
背景に地方の政治抗争
国の玄関口であるマニラ国際空港で白昼に、地方の町長が待ち伏せされ銃撃される事件があり、クリスマスムードの国民に衝撃が走った。町長夫妻のほか、偶然現場に居合わせた男児など4人が死亡、5人が負傷するという惨事となり、地方で過激化する政治的な抗争と、事件を防げなかった空港の警備問題が浮き彫りとなった。
(マニラ・福島純一)
警備に課題、防犯カメラなし
事件は20日午前11時30分ごろ、マニラ国際空港の第3ターミナルで起きた。銃撃を受けたのはフィリピン南部、南サンボアンガ州ラバンガン町のウコル・タルンパ町長で、事件当日はマニラ首都圏で休暇を過ごすために同州から飛行機を利用し空港に降り立ったばかりだった。
町長とその一行が空港の到着エリアを出て、迎えの車を待っていたところ、待ち伏せしていた2人の男に銃撃を受け、タルンパ町長と一緒にいた妻とおいが殺害されたほか、たまたま現場付近に母親と一緒にいた1歳の男児にも流れ弾が当たり病院で死亡した。ほかに町長の同行者など5人が流れ弾で負傷した。犯人はバイクに乗って現場から逃走した。
目撃者によると銃撃を行った男は、警察の制服を着用しており、これによって空港警備をかいくぐり、空港内に銃を持ち込んだ可能性も指摘されている。また犯人が使用していたバイクには、ナンバープレートが付いていなかったとの証言もある。このバイクは、事件後にマニラ首都圏タギッグ市内で回収されており、警察が車体ナンバーなどから持ち主の特定を急いでいる。
この事件を受け大統領府のスポークスマンは、アキノ大統領が国家警察に、迅速な犯人の逮捕を指示したほか、マニラ首都圏警察が、さらに多くの警官を空港に配置したことを明らかにし、ホリデーシーズンの空港利用者の安全を保障すると宣言。国民に安心するよう求めた。
一歩間違えば、観光でこの国を訪れた外国人が巻き込まれていたことも十分に考えられる事件だけに、大統領府は空港当局に、警備問題の改善を強く求めている。とりわけ問題となっているのは、空港の施設内で事件が起きたにもかかわらず、現場付近に防犯カメラが設置されていなかったことだ。事件が起きた第3ターミナルをめぐっては、昨年に空港内で乱闘事件があり、この捜査の過程で幾つかのエリアに防犯カメラが設置されていないことが発覚していた。これを受け運輸通信省が、2012年内にすべての重要エリアに防犯カメラを設置するよう改善を求めていたが、今回の事件が起きた空港出口には、依然として防犯カメラが設置されていないことが明らかとなった。
一方、町長が銃撃された動機をめぐっては、地元での政治的な対立が背後にあるとの見方が強まっている。捜査を行っている国家捜査局(NBI)は、タルンパ町長の娘の証言などから、違法薬物の撲滅キャンペーンをめぐって対立関係にあった前町長グループの犯行との見方を強めており、銃撃事件の実行犯2人に関しても、既に身元をほぼ特定できていることを明らかにした。デリマ司法長官は、事件に前町長と麻薬シンジケートが関与しているとの見方を示している。
殺害されたタルンパ町長は、今回の事件以前にも、命を狙われる事件を2度経験していた。12年には、乗っていた車両に手投げ弾が投げつけられ、護衛の警官が負傷したほか、10年にもマニラ首都圏で銃撃を受けたことがあった。今回3度目の襲撃でついに命を落とした。
フィリピン南部では、このような政治的なライバル同士による抗争事件が後を絶たず、特に選挙前には候補者の暗殺など、争いが過激化する傾向があるため政府はその対策に頭を痛めている。
09年にはミンダナオ島マギンダナオ州で、地元の有力者が私兵を使い、対立する政治家の親族や支持者、そして取材をしていた報道関係者など58人を殺害する事件が起き、世間を震撼(しんかん)させた。この事件をめぐっては、依然として裁判が進まず、被害者の遺族からは司法への不満が高まっている。