比大統領の中国傾斜鮮明に

特報’16

 過激な発言で注目を集めるドゥテルテ大統領が10月、アジア地域で特に関係が深い中国と日本を相次いで訪問した。中国訪問では「米国との決別」を宣言し、中国重視の姿勢をより鮮明にするなど、インパクトの大きい外交デビューとなった。(マニラ・福島純一)

南シナ海問題を棚上げ
国内では根強い警戒感も

 ドゥテルテ氏は今回の外遊で、中国から2兆5000億円の経済支援のほか、2012年から続いていたフィリピン産バナナの禁輸解除、フィリピンへの渡航規制解除などを引き出した。日本からも50億円に達する経済支援のほか、大型巡視船の供与などを取り付け、ドゥテルテ氏の「経済優先」という外交目標は見事に成功を収めたように見える。

 さらに南シナ海のスカボロー礁では、ドゥテルテ氏の要求通りフィリピン漁民が漁業を再開。これまで妨害していた中国の巡視船が、フィリピン漁民に食べ物やたばこを分け与えるという和解ぶりも見せつけている。

 しかし、国内では中国への警戒感は根強い。比紙・インクワイヤラーは、南シナ海の埋め立て工事に関与している建設会社が、中国の経済支援で行われる空港などのインフラ整備に参加する予定だと指摘。経済支援も覚書が交わされただけで最終決定ではなく、その時の状況により実現されない可能性もあると警鐘を鳴らした。

 また左派系政党のホンティベロス上院議員は、「宗主国が米国から中国に代わるだけ」と述べ、極端な反米親中路線に懸念を表明。ハーグ仲裁裁判所での外交的勝利を棚上げにすることは、南シナ海での主権を著しく損なうことだと批判した。

 とはいえ、このような懸念は今のところドゥテルテ氏の支持率には大きな影響を与えていない。南シナ海問題を棚上げにしても、まず国内の発展を最優先させるという「ドゥテルテ節」の外交姿勢は、短期的な経済発展を何よりも願う国民のニーズに合致しているからだ。10月11日に発表された世論調査では支持率83%と高い数値を維持しており政権運営は安泰。今後も安定した支持率を背景に、公約である麻薬撲滅のほか、連邦制への移行を加速させるだろう。

 ドゥテルテ氏はダバオ市長時代から親日家だと伝えられており、今回の訪日での上機嫌ぶりは不思議ではない。しかし、日本が単に援助を与える「優しい隣国」に甘んじていては、狡猾(こうかつ)な中国に出し抜かれることになりかねない。日本には経済支援を後ろ盾に、外交的な溝が広がる米国に代わって、フィリピンを日米同盟側として引き留める積極的な働き掛けが重要となってきそうだ。

 日本から帰国後ドゥテルテ氏は、皆が寝静まった飛行機内で「もし悪口をやめなければ飛行機を墜落させる」という神の声を聞いたと告白。「神との約束は国民との約束だ」と述べ、暴言や悪い言葉を慎むと誓った。

 ところが、日本で10月27日に開催されたミス・インターナショナルでフィリピン代表が優勝したことをめぐり、「わが国の美しい女性が優勝することはいつでもうれしい。でも人権委員会の連中はみんな醜い」と、早速暴言を炸裂(さくれつ)させるなど、その発言に重みが感じられないのは相変わらずだ。今後も日本を含めた周辺諸国は、ドゥテルテ氏の動向や発言に振り回されそうだ。