中国、南シナ海実効支配を強化

近隣国漁船へ暴力行為急増

 中国は新年明け早々、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のチュータップ岩礁に建設した軍用空港で試験飛行を実施した。これを受けベトナム外務省は即日、在ベトナム中国大使館に抗議文を手渡した。南シナ海では中国当局によるベトナム漁船への暴力行為が急増している。ベトナムと中国の国防省は昨年末、両国防省間のホットラインを正式に開設。これに伴い年初、ベトナムのフン・クアン・タイン国防相と中国の常万全国防相は電話会談に臨み、和やかな雰囲気の中で互いに新年の祝辞を述べたばかりだった。握手するテーブルの下で激しく相手の足を蹴り付ける中国の暴挙に周辺国の警戒心は深まるばかりだ。
(池永達夫)

ベトナムの試験飛行中止要請も一蹴

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空から見た南沙(英語名スプラトリー)諸島=昨年5月11日撮影(EPA=時事)

 ベトナム外務省のレ・ハイ・ビン報道官は、「ベトナムの南シナ海の領有権を著しく侵害する行為」として、中国の試験飛行を強く非難。ビン報道官は、南シナ海行動宣言(DOC)だけでなく両国間の海上問題解決行動規範に違反し、南シナ海の平和維持に支障をきたすと抗議した上で、試験飛行の即時中止を求めた。

 このベトナムの抗議に対し中国政府は「中国は南沙諸島や周辺海域に争いようのない主権があり、道理のない非難は受け入れない」と一蹴した。

 ベトナムはチュータップ岩礁の領有権を主張しているが、1988年から中国の実効支配下にある。中国はこの他、チュオンサ諸島と西沙(英語名パラセル)諸島で人工島や軍用空港建設を進めるなど、南シナ海の実効支配強化に動いている。

 こうした中国の実効支配の既成事実化には、東シナ海に続く防空識別圏(ADIZ)の設定が視野にあるものとみられる。

 制海権を掌握するには制空権を押さえることが先決になるためだが、海そのものも法の支配ではなく力による支配の色が濃厚になりつつある。事実、南シナ海では中国当局によるベトナム漁船への暴力行為が続いているのだ。

 南沙諸島はベトナムや中国、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾が諸島の全部または一部の領有権を主張しており、この5カ国がそれぞれ実効支配している。この海域では、各国による相手国漁船の拿捕(だほ)が相次いでおり、発砲事件も多発している中、とりわけ目立つのは中国当局や漁船の力による威圧と実効支配だ。

 南シナ海にあるベトナム中部のリーソン島は、沿岸から25㌔離れ、人口は2万人を擁している。多くが漁民で魚種が豊かな南沙諸島や西沙諸島で漁業に従事している。ベトナム本土からリーソン島に移り住んだ17世紀から今に至るまで南シナ海の漁場は先祖代々、受け継がれてきた伝統的な生業(なりわい)となっている。

 このリーソン島から出漁した船が近年、これらの海域で中国当局の船に体当たりされたり、乗り込んできた中国人に無線機や全地球測位システム(GPS)、魚具などを奪われたりする被害が続いている。

 2012年以降、34件の被害が報告され、それ以外にも中国船に威嚇行為を受けたり、執拗(しつよう)に追い回されたりすることは日常茶飯となっている。このためリーソン島の漁業は、収入が12年以前に比べ近年は3割方落ち込んでいるとされる。

 元日にはベトナム中部クアンチ省の沖合で操業中のベトナム漁船が中国船から体当たりされ、乗組員7人が船外に投げ出された。

 そもそもベトナムでは、中国の二枚舌には辟易(へきえき)している。

 昨年11月5日、ベトナムを訪問した習近平国家主席はグエン・フー・チョン共産党書記長と会談し、南シナ海問題が両国関係に悪影響を及ぼさないよう「適切に処理し、平和と安定の維持に努力する」することで合意したはずだった。だが習主席は2日後のシンガポールでの演説で「(南シナ海は)古くから中国の領土」と主張したのだ。