比次期大統領選、ドゥテルテ氏が支持率トップに

過激発言や道徳性めぐり賛否

死刑復活、容疑者の射殺支持

 熱狂的な支持者を抱えるダバオ市長のドゥテルテ氏が、比大統領選への出馬を正式に表明したことで、来年の大統領選は混戦模様に拍車が掛かっている。最新の世論調査では、ドゥテルテ氏がほかの候補を一気に抜き去りトップに躍り出るなど、圧倒的な人気を印象付けた。
(マニラ・福島純一)

居住期間や国籍問題で候補者失格 ポー氏

ダバオの安全は都市伝説に過ぎず ロハス氏

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8日、マニラ首都圏の中央選管で立候補の手続きを行ったドゥテルテ氏=ドゥテルテ氏のフェイスブックから

 民間調査会社のソーシャル・ウェザーステーションが7日に発表した世論調査では、ドゥテルテ氏が38%の支持率でほかの候補者を大きく引き離し、一気に首位に躍り出た。これにポー上院議員とビナイ副大統領が同率の21%で続き、アキノ大統領の後継候補であるロハス前内務自治長官は15%と、依然として低迷を続けている。

 当初ドゥテルテ氏は、支持者による活発な出馬支持キャンペーンにもかかわらず、市長に再選するために大統領選への出馬を固辞していた。しかし、国籍問題が浮上しているポー上院議員の支持率が高まったことで危機感を感じ、それを阻止するために出馬を決意したと同氏は説明している。ドゥテルテ氏は期日までに中央選管に立候補届を出していなかったが、所属政党から出馬を予定していた別の候補者が辞退し、その代理として出馬することになった。

 ドゥテルテ氏はミンダナオ島にあるダバオ市の治安を改善し、国内有数の犯罪が少ない都市にした手腕が、国内で高い評価を受けている。しかしその一方で「デス・スクワッド」と呼ばれる処刑部隊を指揮して、超法規的に容疑者を殺害していたことを認める発言をするなど、人権団体などから批判を受けている。

 犯罪対策に関してドゥテルテ氏は、警官による犯罪者の射殺を支持し、さらに死刑を復活させて積極的な犯罪抑制を行う方針を示している。その一方で犯罪に関与する警官に対しても厳しく対処する姿勢を見せており、「もし何か悪さをしたら彼らが先に(あの世に)行くことになるだろう」と述べている。

 一方、ドゥテルテ氏が出馬を表明するまでトップだったポー氏は、フィリピンの居住期間が10年に満たないとして、中央選管から候補者資格の失格を言い渡され窮地に陥っている。ポー氏は中央選管の判断を不服として最高裁に提訴し、候補者資格を取り戻す方針だ。しかし、ほかにも生まれてすぐに親に捨てられた孤児だったことから、両親がフィリピン国籍を所持していたかどうかの証明ができず大統領資格がないとの指摘もあり、出馬できるかどうかは依然として不透明で、これも支持率を落とす原因となっている。

 低い支持率からの挽回を狙いたい与党候補のロハス氏は、国家警察の統計を引用し、ダバオ市が国内で4番目に犯罪の多い都市だと指摘。「ダバオ市が安全だというのは都市伝説に過ぎない」と述べ、犯罪対策に「魔法の杖」はないことを強調。死刑復活や容疑者の射殺で治安を良くすることはできないとして、ドゥテルテ氏の手腕に疑問を呈した。その上で、内務自治長官として国家警察を指揮し、マニラ首都圏の犯罪率を低下させた自身の経験を強調し国民に支持を求めている。

 今のところ圧倒的な人気を誇っているドゥテルテ氏だが、政治的手腕に関しては未知数な部分が多いのも事実だ。ダバオ市長を長く務めているほかは、下院議員を短期間務めた経験があるだけで国政の経験は浅い。地元メディアに「フィリピンのドナルド・トランプ」と呼ばれるなど、ドゥテルテ氏は過激な発言で注目を集めているが、有権者の好き嫌いがハッキリ分かれる候補者であり、野党票をどこまで集められるかが当選の課題となりそうだ。

 一方、出馬の危機に陥っている無所属のポー氏は、アキノ政権の汚職撲滅や経済政策を継承する方針を示しており、ロハス氏との間で与党票の分散が懸念されていた。そのため、最高裁でポー氏の出馬が認められなければ、ロハス氏にとって有利な情勢となる。野党票をめぐりドゥテルテ氏とビナイ氏がつぶし合う構図となれば、ロハス氏にも挽回の余地が残されていると言えそうだ。