マニラ首都圏の交通渋滞が深刻化

幹線道路の対策に警官150人

 マニラ首都圏の交通渋滞が悪化の一途をたどっており、大きな社会問題と化している。経済発展により自家用車の普及が加速する一方で、道路や鉄道などのインフラ整備がまったく追い付いていないのが原因だ。渋滞による莫大な経済的損失や通勤者の負担が指摘される中、アキノ大統領が幹線道路に警官を配備して交通整理を行うよう国家警察に命じるなど、渋滞緩和が政府の大きな課題となっている。(マニラ・福島純一、写真も)

渋滞による経済的損失 2030年には1日60億㌷

800

マニラ首都圏エドサ通りの交通渋滞の様子。マカティ市内で撮影

 7月に国家警察長官に就任したリカルド・マルケス氏に、アキノ大統領から与えられた最初の重大な使命は、末期状態となっているマニラ首都圏の幹線道路「エドサ通り」の渋滞対策だ。もともと渋滞対策は首都圏開発局(MMDA)の担当だったが、渋滞を招く無謀運転の取り締まりなど交通規律の回復には、拳銃を所持し威圧感のある警官の方が適役との判断だ。

 これまでに150人の高速パトロール隊の警官が、エドサ通りの渋滞が発生しやすい場所に配備され、路上駐車や違法の露店商を排除するなど渋滞の改善に奮闘しているが、しょせんは「付け焼刃」的な対応にすぎないとの意見も多い。警官の活躍で渋滞が改善されたとの見方もあるが、少し大雨が降ると各地で道路が冠水して、警官たちの努力もむなしく交通は完全に麻痺するのが現実だ。そのため、もっと根本的な改善が求められている。

 MMDAによると、全長約24㌔㍍のエドサ通りのキャパシティーは本来14万4000台だが、現在はその倍以上となる36万台の車が流入しており、渋滞の発生は必然的なものとなっている。フィリピンの自動車工業会(CAMPI)によると、今年1月から8月までの自動車の販売数は約18万台で、昨年と比べ20%以上の伸びを示している。そのうち60%の自動車が首都圏に集中していると言われており、今後もさらなる渋滞悪化が予測される。

 パオロ・ベニグノ・アキノ上院議員は、国際協力機構(JICA)の調査を引用し、マニラ首都圏の渋滞による経済的な損失は1日につき24億ペソ(約62億円)になると説明。さらに2030年には60億ペソ(約150億円)に達すると指摘し、貧困層は値上がりした交通費や輸送費に収入の約20%を費やすことになると予測。戦略的な交通インフラ整備のロードマップが必要だと訴えている。

 また都市計画の専門家は、首都圏の渋滞によって通勤者が浪費する時間は1年に1000時間に及ぶと分析。これは交通整備が進んだ国の10倍に相当すると指摘し、渋滞問題が国民の生活に与える影響の深刻さを強調した。

 大統領府の報道官は、渋滞問題が国民の大きな関心事であることに理解を示した上で、改善計画がまだ進行中であると指摘。南北の高速道路をつなぐ約15㌔の縦貫道路が完成すれば、渋滞は大きく改善されるとの考えを示し、もうしばらくの忍耐を国民に求めた。縦貫道路が完成すれば、これまで2時間を要したマニラ首都圏の縦断が、約15分に短縮される見通しだが、2017年の完成予定は2018年まで遅れる見通しとなっている。

 また今年11月に開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議に向けて建設が進められていた、ニノイ・アキノ国際空港高速道路の完成も来年にずれ込むことが確実視されている。空港の周辺は、この高速道路の建設工事で渋滞がさらに悪化していて、飛行機に乗り遅れる乗客が相次ぐなど大きな問題となっており、首脳会議への影響も懸念されている。