中国支援のタイ鉄道、着工へ
昆明とバンコクを連結
中国、3年後に南進の果実
中国とタイの鉄道をラオスを経由してリンクさせる一大プロジェクトが来月にも着工される。3年後に予定される完成時には、ラオス、タイ、マレーシアを経由して北京とインドシナ半島南端のシンガポールが連結されることになる。中国は1990年代、李鵬首相(当時)が号令した南進による東南アジア諸国連合(ASEAN)取り込みの果実を手にしようとしている。(池永達夫)
中国は雲南省昆明とラオス首都ビエンチャンを結ぶ全長520㌔の鉄道にアクセスする新鉄道をタイ国内に敷設する。中国の投資支援を受け、タイ北部ノンカイから東北部ナコンラチャシマ県、中部サラブリ県ゲンコイを経て東部工業地帯のあるラヨーン県のマプタプット港に至る全長734㌔の路線とゲンコイ―バンコク間133㌔の路線で全長867キロの鉄道を整備する。当初、中国は5年の工期を見込んでいたが、プラユット暫定政権の強力な前倒し依頼を受け3年後の完成を目指す。
3年後には、北京とシンガポールが連結されるユーラシア縦断回廊が完成することになる。
折しも今秋には人口約6億人という巨大市場を擁したASEAN経済共同体(AEC)が発足する。AECは域内の関税撤廃に加えて、サービス貿易の自由化、人の移動の自由化が図られる。そのためには物流と人を運ぶ大動脈となる鉄道網の整備は欠かせない基礎インフラだ。
昆明とバンコクを結ぶ鉄道往復運賃は約3600バーツ(約1万2100円)。これは航空運賃の3分の1から4分の1の料金だ。貨物運賃も空輸に比べ9分の1程度に抑えられる。タイ観光局はタイを訪れる中国人観光客は、鉄道開通で約200万人増加すると弾いている。今でもメコン川沿いのタイのチェンコンと雲南省景洪を結ぶ航路で中国のリンゴやタイの果物やゴムの原料などが運ばれているが、鉄道が整備されることで鮮度が高まりさらなる交易が期待される。
中国は同国南部とインドシナ半島とを一体化させた物流ネットワークをジャンプボードに、ASEANとの交易を陸路に限っても2020年には往復で8860万㌧に、貿易総額は8000億㌦と弾く。
そもそも中国が南進を本格化させたのは1990年代初期のことだった。沿海地域とは対照的に経済発展から取り残された雲南、貴州、四川、広西など西南地区の開発を目指した当時の李鵬首相は、「雲南を南に向かって開き南進せよ」との国家戦略を発令した。後発地域の開発促進とともに、1989年6月の天安門事件で国際的孤立を強いられた中国がASEANとの経済関係を強化することで外交的打開の道を開く意味もあった。
以来、欧米が経済制裁をかけていたミャンマー軍事政権への接近やメコン川流域開発へのダイナミックな取り込みなど、雲南省省都の昆明や広西チワン族自治区の首府・南寧を基軸に南進政策が続けられてきた経緯がある。
さらに中国は、昨年5月にタイで起きたクーデターも好機と受け止めた。欧米がタイのクーデター政権に対し制裁を科す中、積極的に暫定政権の後ろ盾役を買って外交攻勢を掛けてきたのが中国だった。昨年には李克強首相がタイを訪問。ミャンマーの軍事政権に対してそうであったように、中国は外交の空白地帯に積極的に出てきて、近隣諸国を「中国百年の大計」の中に組み込むという常套(じょうとう)手段をタイにも行使したのだ。
中国の高速鉄道総延長距離は1万1000㌔を超え、自国内の大都市間は高速鉄道網をおおむね完成させつつある。高速道路に至っては総延長距離が11万㌔を超えて、世界でも有数の高速道路先進国に浮上している。
中国とすれば、こうした物流インフラを近隣のASEAN諸国に連結させることで、生産設備過剰で在庫のはけ口にすることで差し迫った経済低迷を打破したい意向とアジアの覇権確立の布石としたい遠望が働いている。かつて日本の金城湯池とされてきたASEANに、中国は最後の南進攻勢の追い込みに入っている。






