天津爆発の陰で中露軍事演習
抗日式典控え蜜月ぶり誇示
中国とロシア両軍が20日から28日まで極東ウラジオストク周辺の日本海で合同軍事演習を行い、対空、対艦、対潜水艦作戦や合同上陸訓練を展開している。天津の大規模爆発で習近平政権への不満がくすぶる中、9月3日には北京での「抗日戦争と反ファシズム戦争勝利70周年」記念行事にプーチン露大統領は出席し、同月末の国連総会にも中露首脳そろい踏みで出席、同盟強化する日米を牽制(けんせい)する動きだ。(香港・深川耕治)
今回の中露両国海軍の合同軍事演習「海上連合2015」は5月中旬に地中海東部で行われた1回目に続き、2回目。2012年から毎年続く合同軍事演習で1年で2度に分けて行われたのは今回が初めてだ。
演習場所は日本海の北西部にあるロシア沿海地方の南部ピョートル大帝湾沖、ハサン地区のクレルカ岬、日本海沿岸の3エリアで、20日、中国海軍の051C型駆逐艦(瀋陽級ミサイル駆逐艦)がウラジオストクに入港して始まった。
中国からは艦船7隻、艦載ヘリ6機、固定翼機5機、水陸両用車21台、海兵隊員200人が参加している。その中にはミサイル駆逐艦「瀋陽」「泰州」やミサイルフリゲート「臨沂」「衡陽」、揚陸艦「長白山」「雲霧山」、総合補給艦「太湖」も含まれており、中国の水上艦部隊、水陸両用部隊、固定翼戦闘機部隊がそろって海外での軍事演習に参加するのは初めて。
中国海軍の王海副司令員は「今年の軍事演習が2度にわたって行われたのは中露両国の海軍協力が新たな段階に入ったことを意味する」と蜜月ぶりを表明している。
中国メディアは「日本側が日本海での初の軍事演習に重大な関心を寄せている」「日本の防衛省統合幕僚監部ホームページで連日、関連情報を立て続けに公開している」(上海テレビ)と報じ、日本側の動向を注視。
中国側は「ロシアとの軍事演習は第三国に対するものではなく地域情勢とも無関係」(北京青年報)と打ち消しているが、中国が領有権を主張する南シナ海の南沙諸島、西沙諸島、尖閣諸島(沖縄県石垣市)などをめぐる米中対立などを念頭に、日米を牽制する狙いがあるとみられる。
中国の外交、内政を取り巻く複雑な情勢で習近平指導部の舵(かじ)取りが試されるのは来月3日に北京で行う「抗日戦争と反ファシズム戦争勝利70周年」記念行事でのロシア、韓国、中央アジア諸国との結束強化と対日、対米関係への間合いの取り方だ。
式典には米国や日本の首脳は出席せず、5月にロシアで行った対独戦勝記念式典への出席を断った欧州諸国は北京での首脳レベルの出席を見合わせている。韓国は米政府の反対を押し切って、朴槿恵大統領の出席を表明し、ロシアのプーチン大統領や中央アジア諸国の首脳は参加を明らかにしている。
ただし、日本の安倍晋三首相が9月の訪中日程を調整し、日中首脳会談を行う可能性もあり、習近平国家主席の訪米も9月に控えている。習氏の訪米はオバマ米大統領の招待に応じたもので、中国の最高指導者として習氏が訪米するのは初。国家主席就任後、習氏の訪米は13年6月以来、2回目となるだけに米中首脳会談で外交手腕が試される。国連創設70年の記念行事に出席することも承諾し、プーチン大統領や朴槿恵大統領も国連記念行事に出席することで中露、中韓の結束を国連の場でも見せつけたいところだ。
一方、外交以上に内政にはかなりの不安定要因が残る。
少なくとも114人が死亡、57人が行方不明となった12日発生の中国天津市で起きた大規模爆発をめぐり、政府の産業安全対策に対する杜撰(ずさん)さが被害住民や遺族らの不満、抗議だけでなく、一般国民にも不信の連鎖が広がることを外交上、重要な時期と重なることで中国政府は治安対策を名目に厳しく封じ込めようとしている。
しかし、天津の爆発事故は権力闘争を引き起こしかねない側面もある。15日付の香港紙「蘋果(りんご)日報」が伝える中国本土情報によると、爆発が起きた倉庫を所有管理している瑞海国際物流公司は筆頭株主兼総裁が李亮天津山川国際貿易有限公司理事で天津出身の李瑞環元政治局常務委員(元全国政治協商会議主席)のおい(李瑞環氏の実弟・李瑞海氏の息子)であり、李瑞環氏の親族が関与しているという。事実であれば、周永康元政治局常務委員の処分同様、捜査は元最高指導部メンバーに及ぶ可能性もあり、党内権力闘争の波乱の引き金にもなりかねない。
毎夏、河北省のリゾート避暑地の北戴河で行われる中国最高指導部の元・現指導部が一堂に会する非公式会議「北戴河会議」が3日から15日まで行われた。経済改革、軍改革、腐敗汚職対策、17年の第19期全国人民代表大会(全人代=国会)での人事案件について討議され、汚職撲滅対策については徹底取り締まりを進める習総書記の一強多弱の権力バランスについて、江沢民元国家主席、李鵬元首相、胡錦濤前国家主席ら長老が自論を展開し、自派閥の温存にプラスになる発言が相次いだという。ただし、閉会間際に天津の大爆発事故が発生し、責任問題をめぐり党内派閥闘争に発展しかねない情勢が続いている。