スリランカ総選挙 首相の座狙う前大統領
ラジャパクサ派が勢力拡大なら
中国傾斜に後戻りも
インド洋で重要な地政学的位置を占める島国スリランカで17日、議会の総選挙(定数225、任期6年)が実施される。年初の大統領選でシリセナ大統領にまさかの敗北を喫したラジャパクサ前大統領は一議員として出馬した上で、自派勢力の拡張を図り首相として政権への返り咲きを狙う。シリセナ氏はラジャパクサ氏の親中路線に反対することで政治的な求心力を得たものの、ラジャパクサ氏の首相就任を許すようだと、再びスリランカの中国傾斜に歯止めが利かなくなる可能性が出てくる。(池永達夫)
ラジャパクサ氏を評価する人々がまず指摘するのが、四半世紀もの間続いたタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との内戦を終結に導いた2009年の実績だ。
ラジャパクサ氏が使った手法は、中国兵器の大量導入による圧倒的戦力をバックにしたものだった。だが、スリランカ政府にとって至上命題である内戦終結に中国の力を借りることで、政治的な借りをもつくってしまった。
インド南端沖にあり東西シーレーンの要の位置にあるスリランカへ囲碁の布石のように、関係強化を図ってきたのが中国だ。かつて同国最大の援助国は日本だったが、それも09年以後、中国に取って代わられた。同国への投資額でトップに立ったのは中国だ。さらにスリランカにとって貿易面でも中国はインドに次ぐ第2の貿易相手国に浮上している。
ラジャパクサ氏の故郷である南部ハンバントタには、中国が資金を提供して南アジア最大級の港湾を整備した。また中国は、そのハンバントタにコロンボ国際空港に次ぐ第2の国際空港を完成させてもいる。ハンバントタは元来、アラブ人が造った小さな港だった。それが中国の札束外交で、海と空を含めた南アジア最大の物流センターにさせようとの思惑がある。
ただ、ハンバントタ港の沖合10㌔は、中東からの原油タンカーが行き交うシーレーンでもある。スリランカ政府が中国の艦船に寄港を認めれば、中国は日本や韓国、台湾へのエネルギー補給路を牽制(けんせい)するバーゲニングパワーを持つことになる。
ラジャパクサ氏は中国の力を利用し、港湾や道路、空港といったインフラ整備の資金を確保してきたが、年初の大統領選でシリセナ氏は「スリランカは浅はかな外交によってイメージが破壊され、急速に国際社会からの孤立を深めていた」と批判した上で欧米やインド、日本などを重視したバランス外交への展望を語った。
早速、シリセナ大統領は2月の初外遊で、これまで険悪な関係だった隣国インドを訪ね、安全保障分野などでの協力強化で合意。さらに中国が進めるコロンボの港湾都市開発計画を中断するなどバランスを取った。インド側もモディ首相が3月にコロンボを訪れ、インフラ支援を表明するなど、スリランカとの協力強化に舵(かじ)を切っている。
シリセナ氏はラジャパクサ氏と同じ「自由党」に属している。ラジャパクサ前政権では保健相を務めていたこともあったが、ラジャパクサ前大統領に反旗を翻して大統領選に臨み、ラジャパクサ氏を破った経緯がある。ラジャパクサ氏とすれば、大統領選という一騎打ちには負けたものの、自派の政治力は温存されており、総選挙でさらに自派勢力を拡大できれば首相就任も可能となる。
自由党党首でもあるシリセナ大統領は、党が勝利しても首相にはラジャパクサ氏を指名しない意向を明らかにし、抵抗勢力を牽制しているものの、民主政治は数の力でもある。ラジャパクサ氏が自派勢力をどれだけ伸ばせるかがすべてを決定する。ラジャパクサ氏は一度、勝てると思っていた大統領選で敗北という冷や水を浴びているだけに、2度連続の敗北は政治生命の喪失につながるとの危機感から、背水の陣で臨んでくる。その必死さは侮れない。
ただ政権の実務を担う首相職にラジャパクサ氏が就けば、前政権同様の中国傾斜に後戻りするシナリオとなる可能性は高くなる。