比大統領、レームダック化の懸念
就任以来、高い支持率を維持してきたアキノ大統領だが、警官44人が犠牲となったテロリスト追跡作戦におけるイスラム勢力との戦闘をめぐり、国民の支持率が急落。上院を中心に国会議員からの批判も高まるなど、政治的な混乱に見舞われ、政権のレームダック(死に体)化が懸念されている。アキノ政権下で期待が集まっていたミンダナオ和平も、この事件により暗礁に乗り上げており、次期大統領選に関する世論調査では、野党候補への期待が高まる結果となっている。(マニラ・福島純一)
各種調査で支持率急落
次期大統領選 野党候補の優勢続く
このほど民間調査会社のパルス・アジアが行った最新の世論調査によると、アキノ大統領への信任率は36%となり、昨年11月の56%から20ポイントの大幅な下落となった。急落の原因は、ミンダナオ島で指名手配のテロリストを追っていた警察の特殊部隊が、イスラム反政府組織、モロ・イスラム解放戦線(MILF)と交戦となり、44人の警官が死亡した事件への対応に批判が集まっているからだ。
調査が進み事件の実態が明らかになるにつれ、アキノ大統領が最高司令官として適切な判断を下していれば、この犠牲は防げたとの見方が強まっており、この世論調査の結果は、多くの国民がこの見方に同意している実態を裏付けた格好だ。
上院でポー議員を中心に、3月17日までにまとめられたテロリスト追跡作戦に関する報告書では、アキノ大統領の判断ミスにより大きな犠牲を招いたとの結論に達し、過半数を超える上院議員がこの報告書に署名。アキノ大統領の責任を追及する動きは強まる一方となっており、このまま政権のレームダック化が加速し、MILFとの和平実現に必要なバンサモロ基本法案の審議再開が、さらに難航する可能性も出てきた。
MILF側が上院に提出した独自のリポートでは、支配領域近くに潜んでいたテロリストの存在に気付かなかったと主張。さらに、警察特殊部隊との戦闘は、自衛のための反撃だったと正当化し、混乱の原因は追跡作戦の調整不足にあったとして、政府側の責任を追及しており、アキノ政権にとっても不利な内容となっている。上院議員からは、支配領域の間近に潜伏しているテロリストの存在に気付かなかったとする報告を疑問視する意見も根強く、このリポートはMILFへの不信をさらに高める結果となっており、バンサモロ基本法案の審議再開の先行きはさらに不透明感が増している。
一方、別の世論調査でもアキノ大統領への失望が浮き彫りとなっている。パルス・アジアが行った正副大統領と三権の長に関する調査でも、アキノ大統領の支持率が急落し、昨年11月の59%から、21ポイント下落して38%となった。一方、次期大統領選で野党からの出馬が確実視されているビナイ副大統領は、前回の45%から46%に微増。ビナイ氏もマカティ市長時代の汚職疑惑を追及され、支持率が下落傾向にあったが、テロリスト追跡作戦をめぐるアキノ大統領の失態が、それをかき消す格好となった。ほかにドリロン上院議長が47%から49%に微増する一方で、セレノ最高裁長官が8ポイント減少の29%、ベルモンテ下院議長が7ポイント減少の27%となるなど、いずれもアキノ大統領寄りの人物が支持率を落としており、国民の与党離れが鮮明となった。
また次期大統領選に関する世論調査では、ビナイ副大統領が前回の26%から29%と、汚職疑惑による支持率低下を取り戻し首位を堅持。上院でテロリスト追跡作戦におけるアキノ大統領の責任を追及するポー議員は14%を獲得して2位となった。3位は元大統領のエストラダ・マニラ市長で、12%の支持を獲得し根強い人気を維持している。一方、前回の大統領選でアキノ氏に出馬を譲り、次期選挙で後継者として出馬すると目されていたロハス内務自治相は、テロリスト追跡作戦での失態が追い打ちとなり、前回の6%から4%にまで下落し、信頼回復は難しい状態だ。
汚職撲滅と貧困改善を掲げてスタートしたアキノ政権だが、3月に発表された国家統計局の発表によると、貧困生活を送っている国民の割合が25・8%と、前年の同じ時期の24・6%から悪化を見せた。外国からの投資が増加し、株価が史上最高を記録するなど政府が好調な経済発展を強調する一方で、コメなどの食料品価格が値上がりするなど、貧困層に恩恵が行き届かない状況が続いており、このような状況も国民の失望を招いている。