サッカー強国へ中国政府が後押し

W杯自国開催へ組織刷新

 中国政府はサッカーワールドカップ(W杯)出場と自国開催を目指して改革プランを公表し、組織刷新と人材育成強化に乗り出した。スポーツ強国化が愛国主義の高揚に波及するとして、サッカー好きで知られる習近平国家主席の肝いりで国を挙げてサッカー水準の底上げを打ち出して世界の強豪国入りを目指すが、サッカーだけ特別視して他競技とのバランスを欠くとの不満や批判も出ている。(香港・深川耕治、写真も)

重点2万校で選手育成へ

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香港返還10周年の記念イベントで海外プロサッカーリーグ選手との試合後に香港政財界トップと談笑する中国代表選手たち

 中国で人気スポーツの一つであるサッカーは1994年に中国サッカー協会によって開幕したプロサッカーリーグがあり、2部リーグ(18チーム)、3部リーグ(18チーム)まである。

 1部リーグ(スーパーリーグ=16チーム)に所属するクラブはアジア各国のクラブチームが優勝を争う「アジアチャンピオンズリーグ(ACL)」でも、2003年の初参加以来、善戦し、13年にはスーパーリーグ4連覇中の広州恒大が優勝。今年も北京国安と広州恒大の2チームがここまで3戦全勝で健闘している。

 一方でプロリーグは資産家オーナーが巨額資金にものを言わせて選手を集め、有名な外国人監督を抜擢(ばってき)しているが、企業益優先で有能な若手選手の育成ができない問題点が浮き彫りになり、中国代表チームは国際試合で低迷を続けている。

 中国サッカー界に暗い影を落としているのが、中国共産党幹部の汚職問題と同じ構造の八百長問題だ。09年に中国サッカー界を震撼(しんかん)させた八百長事件で国際サッカー連盟(FIFA)は、1990年代から2000年代初期に行われた試合に関する同事件に関与したとして58人の選手、審判員らの大量処分を決め、33人を国際大会から永久追放。「中国サッカーの原罪は体制自体にあり、政治でサッカーを行っても永遠に勝ち進めない」(サッカー解説者の李承鵬氏)との絶望感すら漂った。

 男子チームは現在、FIFAランキングで83位。過去30年で見ると、男子サッカーは五輪出場は2回、W杯出場は1回だけで最近は五輪、W杯ともに予選敗退が続いて苦杯を嘗(な)め続けている。

 中国政府としては組織刷新と選手育成の底上げこそ、サッカー競技人口を増やすだけでなくスポーツ振興による国威発揚につながるとの目算がある。その伏線はここ数年の習近平国家主席の言動にも端々で表れている。

 習主席は外遊先などでサッカーファンであることを公言し、昨年3月、オランダ訪問では同国有名選手のファン・デル・サール氏が「幼少期からサッカーボールに親しむことが大切」とアドバイスすると、「●(=登におおざと)小平氏も同じことを話していた。時間をかけて取り組む必要がある」と回答。同年7月、アルゼンチンで同国要人からアルゼンチン代表の10番ユニホームを贈呈されると、「中国でワールドカップを開催するのが私の夢だ」と歓談するなど、サッカー強国実現の強い意向をのぞかせていた。

 中国政府はサッカー振興の抜本的な底上げ方針「中国サッカー改革の総合プラン」を2月の党内決議で可決後、16日に公表。中国代表チームのW杯本大会出場とW杯自国開催を目指し、組織刷新と人材育成を重点方針とした。腐敗の巣窟(そうくつ)だったサッカー協会やプロリーグ組織を大幅に改編して選手育成を学校教育のレベルから強化するプラン内容となっている。

 組織刷新では、従来、中国サッカー協会に資金提供をしていたスポンサー企業との癒着、不透明な財務管理による汚職が野放し状態だった組織運営を見直し、政府の国家体育総局からサッカー協会を切り離して国家体育総局の鶴の一声で決まっていた人事、財務、試合計画に裁量権を与える形に変えた。

 プロリーグを運営してきたサッカー協会の管理運営から新たな社団法人の設立で選手の育成を優先強化。昨年11月の時点ではサッカーを小学生以上で必修科目にすることも決定。全国にあるサッカー重点校を現状の5000校から20年に2万校、25年までに5万校に増設し、学校のサッカー場は放課後、一般市民に低額もしくは無料で開放する。また、選手を育てるプロとなる監督やコーチ、教師を5万人育成し、プロやアマチュアを問わず、一貫性のある人材育成を目指すとしている。

 中国の人気観戦スポーツは球技で、昨年の観戦率調査結果(中国国家国民体質監測センター)によると、バスケットボールが1位(34・9%)で2位・サッカー(10・4%)、3位・卓球(7・1%)、4位・体操(6・8%)、5位・バドミントン(5・9%)を大きく引き離している。

 国内事情から見れば、バスケットボール人気が他競技を圧倒しているが、世界的にプロリーグを含めて大衆に幅広く浸透するサッカー人気は「スポーツ振興による国威発揚という点では習主席の音頭で選手育成を強化して強豪国入りすればバスケットボールよりも国益効果がある」と皮算用する政府関係者が増え始めている。

 スポーツ競技の中でサッカーだけを国家プロジェクトで強化することへの異論も出ている。9日、国政助言機関・中国人民政治協商会議(政協)の記者会見で政協委員を務める米プロバスケットボール協会(NBA)の元スター選手、姚明氏は「非常に嫉妬している。サッカー強化費は使い方を十分に検討する必要がある」とサッカー偏重の政府方針に反発。地方政府でもバスケットボールやバレーボールの大会実施を抑制し、サッカーを小中高校、大学までリーグ化し、教育カリキュラムを特別視する方針転換に「迎合し過ぎて限度を超えている」「愚かな判断」との批判もネット上では強まっている。

 24日、中国サッカー協会の王登峰副主席は「サッカー重点校強化を指導者へのご機嫌取りだと批判する人もいるが、サッカー水準を上げるために人民にご機嫌取りをするのがわれわれの役目だ」と反論している。