比ミンダナオ和平、再び混迷
MILFへの不信高まる
フィリピン南部マギンダナオ州で、警官44人が殺害された戦闘をめぐり、イスラム反政府組織、モロ・イスラム解放戦線(MILF)への不信が高まり、和平プロセスに急ブレーキがかかっている。さらに、イスラム勢力同士の戦闘が拡大し、数万人の住人が避難するなど、ミンダナオ和平は混沌(こんとん)とした状況に陥っている。(マニラ・福島純一)
警官虐殺や手配犯隠匿疑惑
国民や国会議員がMILFへの不信を高めているのは、次々と明らかになっている警官への虐殺や略奪行為があった可能性が浮上しているからだ。死亡した44人の警官の検死の結果、29人が至近距離から頭部を撃ち抜かれて死亡しており、さらに、彼らが被弾した銃弾は150発に達することが分かった。
事件当時、警察特殊部隊は、MILFのほかにバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)とも同時に戦闘状態となっていたとみられており、虐殺行為はMILF戦闘員の犯行ではない可能性も指摘されている。しかし、MILFは当初、殺害された警官からの装備の略奪を否定していたが、政府からの圧力により、警官から奪った16丁の銃器を返却するに至っている。銃は返却されたが、高価なスコープなどの付属品は依然として紛失しており、死亡した警官の携帯電話などの私物と合わせ、政府は引き続きMILFに返却を求める方針だ。
さらに上院議員が入手した米政府の書類からは、MILFが警察特殊部隊の追っていたテロリストを匿(かくま)っていた疑惑も浮上しており、不信をさらに高める結果となっている。今回の戦闘中に射殺されたテロリストは、米政府によって国際指名手配となっており多額の賞金が掛けられていた。またMILF側は、戦闘に参加した戦闘員を政府側に引き渡さない方針を示しており、正義を求める警官の遺族からの反発も予測される。
フィリピン政府とMILFの和平交渉は、日本政府も支援に力を入れている。2006年から国際監視団(IMT)に開発専門家を派遣し、地域紛争の元凶ともなっている貧困を改善するための経済協力を行うなど、和平実現に向けた積極的な貢献を続けている。11年には、日本政府の仲介で、アキノ大統領とMILFのムラド議長との非公式会合が行われ、和平交渉の進展に弾みをつけた。そして14年に、新しいイスラム自治政府(バンサモロ)の創設を条件とした、包括和平合意文書への調印につながった。
しかし今回の戦闘によって、上院で行われているバンサモロ基本法案の審議は、戦闘に関する調査を優先するため中断。多数の議員からは法案の可決に否定的な意見も出ており、アキノ政権下で和平が実現しない可能性も高まっている。もし次期政権に引き継がれた場合、政府側の方針が大幅に変わる可能性もあり、MILFが武装闘争を再開させ、和平交渉が白紙化する懸念もある。バンサモロ基本法案の可決は3月に予定されていたが、既に難しい状況にある。
さらに、今月初めから北コタバト州を中心に、MILFとBIFFの戦闘が激化しており、地域住民1万人以上が避難する混乱に陥っている。組織的な対立ではなく、「リド」と呼ばれるイスラム部族同士の土地をめぐる争いが戦闘の原因とみられているが、双方に多数の死傷者が出るなどして、戦闘がさらに長期化する恐れが出てきている。これ以上の戦闘拡大を防止するため、国軍が介入する可能性を示唆しているが、それにより状況がより複雑化する恐れもあり、慎重な判断が求められそうだ。