中国、花火爆竹規制で大気汚染対策

 中国では春節(旧正月=今年は19日)期間に合わせ、農村部出身の出稼ぎ労働者(農民工)による「春運」と呼ばれる帰省ラッシュが始まり、ピークを迎えている。大気汚染が深刻化し、微小粒子状物質「PM2・5」を含むスモッグに覆われる日が多い北京や上海などの大都市部では、春節期間の花火や爆竹の煙が悪影響を及ぼすことを防止するため、規制措置が取られている。(香港・深川耕治)

マスク姿で興じ“春節汚染”

電子爆竹に替え正月気分も

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昨年11月、大気汚染が悪化した北京の
繁華街をマスク姿で歩く女性(時事)

 中国では旧暦の大みそかに当たる18日から1週間が大型連休。交通運輸省は4日から3月16日までの40日間に中国内で中長距離の延べ旅客輸送数を昨年比3・6%増の28億680万人と予想しており、近距離輸送も合わせれば延べ約37億人の民族大移動となる。

 国内約2億5000万人の農民工が8000万人の留守児童を祖父母や親族に預けて出稼ぎに出ているため、春節に帰省することは年に1度しかない家族団欒(だんらん)の場だ。ここ数年、長距離列車のチケットはパソコンや携帯電話で予約することが容易になったが、自由席で立ったまま長時間移動する苦労は変わらない。帰省ラッシュのピークは16日と予想されている。

 中華圏では春節には邪気払いや厄よけのために家の門を開けて爆竹を盛大に鳴らし、花火をめでる風習がある。その一方、中国の大気汚染の原因は石炭燃焼や自動車の排ガスのほか、春節で行われる花火や爆竹から発生する煙も深刻な悪影響を及ぼし、昨年の春節では上海や南京は濃霧に覆われたような“春節汚染”現象となった。上海市公安当局は例年と違い、花火や爆竹を厳しく規制し、社会環境や安全保護を優先する動きだ。

 上海市では12日から規制管理レベルを2級に指定し、伝統的に花火や爆竹が集中する大みそか(18日)、旧正月4日(22日)、元宵節(3月5日)の午後8時から午前1時までを1級レベルに引き上げ、人民警察官を含めて警官を総動員して爆竹や花火の規制管理に乗り出す。

 上海市公安局の規定では大みそかから旧正月4日までと元宵節の期間、禁止場所を除けば花火も爆竹も使用可能であるため、昨年はマスク姿で爆竹に興じるケースもあった。その他の時間帯では禁止され、消防当局との連携も強化される。

 上海では規制強化によって市内646店への販売許可証の公布が例年より2週間以上遅れ、市場に出回る花火や爆竹の量は約半分に激減。上海市のモニタリング調査結果によると、短時間内に大量の花火や爆竹を使用した場合、大気汚染が悪化した。2013年の大みそかでは、午後11時以降、PM2・5の濃度が急上昇し、最悪基準(危険)である300マイクログラムをはるかに上回る最高で534マイクログラムを記録。

 昨年は党や政府、国有企業が花火や爆竹を自粛したため、春節期間の大気汚染は例年よりも良好で昨年の大みそかでもPM2・5は最大でも300マイクログラムだったが、翌日の春節当日は523・7マイクログラムまで上がり、到底、十分とは言えないレベルだ。

 上海市環境モニタリングセンターの段玉森主席予報員は「空気の拡散条件が良好であれば、花火や爆竹で汚染は急速に広がる。拡散条件が悪くても、途中から急速に深刻な汚染に変わる」と警鐘を鳴らす。上海市の調査結果では、市民の約7割が「電子爆竹でも正月気分は味わえる」と回答し、春節期間の花火や爆竹の使用に反対している。

 昨年12月31日、上海市内の観光地では36人が死亡する転倒事故が発生しており、鉄道各駅や長距離バスターミナルでは安全策がさらに強化される。

 北京市でも花火や爆竹を一度に5箱以上まとめ買いする個人に身分証の提示を求め、業者には公安当局に購入者情報を届け出制にするなど、警戒を強めている。大気汚染の深刻化を受け、北京の日本人学校(小中学部)は昨年4月、500人を割り込み、駐在員が家族を帰国させたり、単身赴任を選んだりするケースが増えている。

 近年では打ち上げ花火も加わり、春節期間だった2009年2月9日、北京市中心部にある建設中の国営中国中央テレビ(CCTV)新社屋北側の付属高層ビルでは規則に違反した200連発と100連発の打ち上げ花火が原因で全焼し、1人が死亡する人災が起こっており、花火対策は防災対策に直結している。

 さらにテロ対策にも影響を与えている。昨年5月には北京国際空港で四川省在住の男性が爆竹を鳴らして公安当局に拘束される事件もあり、新疆ウイグル自治区では爆竹や火薬の材料を大量に購入する反政府勢力の動きに公安当局が厳しい監視の目を光らせている。

 一方、中国中央テレビでは国内12の主要駅で故郷への思いを伝える赤いブースの特設動画撮影コーナーを設け、ネットで家族に動画メッセージを送ることで帰省前の交流に役立っている。進学、就職、結婚など故郷を離れる理由はそれぞれだが、春節で帰省する理由は年に1度の家族との団欒だ。

 同テレビでは12日、「両親に早く会いたい。帰省したらアツアツのビーフンを食べたい」(南寧駅ブース)、「良い年になるよう、お父さん、お酒はほどほどに」(長春駅)、「ここ数年、自分の事業で失敗が続いて苦労をかけたが、今年は努力して成功したいので力を下さい」(鄭州駅)との動画が新年を迎える庶民の哀歓として紹介された。