習政権が団派排除、権力基盤を強化
中国では昨年末、胡錦濤前国家主席の腹心だった令計画党統一戦線工作部長が党の取り調べを受けて解任された。江沢民元国家主席に近い周永康前政治局常務委員の汚職摘発に続き、胡氏の支持基盤である共産主義青年団(共青団=団派)出身の有力幹部に取り締まりが及び、党内の有力派閥が次々と弱体化に追い込まれている。汚職摘発の大義名分で習近平国家主席は他派閥を抑え込み、党内権力基盤を着々と強化している。(香港・深川耕治)
令計画氏後任、自派固める
反腐敗大義に他派の力削ぐ
党中央統一戦線工作部長だった令計画氏(人民政治協商会議副主席)が重大な規律違反で取り調べを受けていることを報じたのは12月22日の新華社通信。31日には同職の解任を決定し、胡錦濤氏の元側近が完全失脚したことを示唆した。
令計画氏については昨年6月、兄の令政策山西省政治協商会議副主席を規律違反で取り調べて山西省利権(山西閥)ルートが暴かれ、10月には企業経営者である弟の令完成氏も取り調べを受けていることが中国メディアで報じられ、党幹部に見られる家族ぐるみの悪質な汚職容疑が露見している。
米国の中国語ニュースサイト「明鏡」は先月、令計画氏の妻と息子が中国人実業家の資金を元手に京都で豪邸を複数購入し、総額3億8000万米㌦(約456億円)を投じたと報道。香港紙「東方日報」12月23日付も一家は日本とシンガポールの銀行に計370億元(約7100億円)の口座を開いて預金しているほか、京都に妻名義の邸宅2軒を所有して令氏の妻や親族らが拘束を回避するため日本へ逃亡する計画だったと報じ、抗日戦争勝利記念70周年を迎えて抗日機運が高まる中国内で、売国奴的な行動と猛反発が出る極めて政治性の高いリーク情報となっている。
一連の党幹部に対する汚職取り締まりは従来の党内派閥バランスを大きく崩し、習近平国家主席を中心とする太子党(紅二代=父祖を党幹部に持つ子弟)が急速に求心力を増し、一強多弱化で習氏の権力基盤を盤石化させている。
中国政界では重大な規律違反で拘束された周永康前政治局常務委員、薄煕来元重慶市党委書記、徐才厚前中央軍事委副主席、令計画氏の4人が文化大革命後に粛清された四人組に比して「新四人組」と呼ばれている。これは習氏に反対する党内勢力の芽を早期に摘み取り、派閥解消と挙党一致で党再生と権力集中を目指す習近平指導部の思惑が透けて見える。2017年の党大会で党最高指導部である政治局常務委員メンバー7人のうち習氏と団派(共青団出身者)の李克強首相以外は定年で一新されるため、習氏主導の人事刷新の政治力を着実に醸成させ始めているからだ。
これまでは江沢民元国家主席を中心とする上海閥、胡錦濤前国家主席が率いてきた団派が党最高指導部で隠然たる政治力を持ち、習近平氏は少数派閥にすぎなかったが、習氏が反腐敗(汚職撲滅)運動を徹底推進するスタンスで上海閥や団派の幹部を次々と取り締まることで太子党が党指導部入りする道が着々と開かれるようになってきている。
12月29日の政治局会議では習近平党総書記が腐敗摘発を統括する党規律検査委員会に対して「任務をうまく全うした」と評価し、「党内で徒党や派閥を組む行為を決して許さない」として腐敗摘発を継続する方針を明示した。31日に中国中央テレビなどで報じられた習氏の新年の辞では「汚職取り締まりを強化し、汚職腐敗分子を徹底して懲らしめる固い決意だ」と述べており、党幹部の汚職取り締まりはさらに継続される見通し。
団派で政治局常務委メンバー入りが有力視されている胡春華広東省党委書記の昇格動向にも暗雲が漂ってきている。
新華社通信は30日、天津市トップの孫春蘭党委書記(党政治局員)に代わり、黄興国市長を充てる人事を決めたと報じ、31日、孫春蘭氏は同職を離れて党統一戦線工作部長ポストに就くことを明らかにした。孫氏は党トップ25人に入る政治局員で女性は劉延東国務委員との2人だけ。失脚した令計画党統一戦線部長の後任に転じたこととなり、女性で2人しかいない党政治局員の一人である孫氏が任期途中で北京や上海に並ぶ直轄市トップから就任2年余で異動となるのは異例の人事だ。
孫氏は遼寧省婦人連合会主席、同省総工会主席を歴任後、大連市党委書記、中華全国総工会副主席となり、09年には福建省党委書記となって台湾問題の造詣も深い。習主席が同じ福建省党委書記を歴任したことがあり、孫氏は習近平氏の派閥であるため、自派から党統一戦線部長へ昇格させて権力基盤を着実に強化。軍部でも許其亮中央軍事委副主席や趙克石総後勤部部長ら自派を軍幹部に昇格させている。