フィリピン南部のイスラム過激派への懸念強まる

襲撃・誘拐繰り返すアブサヤフ

 フィリピン南部を拠点とするイスラム過激派が活動を活発化させている。イスラム武装勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)と政府の和平合意に期待が集まる中、イスラム過激派のアブサヤフや、MILFから離脱したバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)が、スンニ派過激組織「イスラム国」への支持を表明。依然として国軍への襲撃や資金集めの市民誘拐などを繰り返している。政府は国軍による空爆を行うなど、イスラム過激派の掃討を本格化させる方針だ。(マニラ・福島純一

イスラム国の影響拡大も

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イスラム国の戦闘員をインターネット上で募っていた容疑で、フィリピンで逮捕されたオーストラリア人男性ロバート・エドワード・セラントニオ容疑者(中央)=11日、マニラ(AFP=時事)

 2日にフィリピン南部のバシラン州スミシップ町で、政府事業の道路工事現場をパトロールしていた国軍部隊が、約20人のアブサヤフから待ち伏せ攻撃を受け、兵士6人が殺害される事件があった。この襲撃の前日に国軍は、スルー州にあるアブサヤフの拠点に対し、空爆を行うなど掃討作戦を強化しており、それに対する報復攻撃との見方も出ている。この空爆ではアブサヤフ幹部の息子が死亡したと国軍が発表している。またBIFFも10月22日に、スルタンクダラット州にある病院を襲撃し国軍兵士2人を殺害している。

 アブサヤフは国軍への襲撃を繰り返す一方、活動資金集めのために、外国人や一般市民をターゲットにした身代金目的の誘拐事件を多発させており、政府はその対応に苦慮している。

 17日には、アブサヤフに誘拐され人質となっていたドイツ人の男女2人が無事に解放されたが、多額の身代金が支払われた疑いが浮上し波紋を呼んでいる。解放された2人は、4月にフィリピン南部の海上を航行するヨットから誘拐され、アブサヤフは解放と引き換えに身代金2億5000万ペソ(約6億4000万円)のほか、ドイツ政府に対し、米国によるイスラム国への攻撃に協力しないよう要求。もし要求が認められなければ、2人を斬首すると脅迫していた。

 フィリピン政府は、テロリストとは交渉はしないというポリシーに従い、身代金の支払いを否定している。しかし、アブサヤフの報道官が身代金を受け取ったと主張しているほか、身代金とみられる多額の札束を撮影した映像が、フェイスブック上で出回るなど、現地の報道では実際に支払いがあったとの見方が強まっている。

 この身代金の支払いをめぐっては、国軍当局者がアブサヤフによるプロパガンダと否定する一方、匿名の国家警察関係者は現地メディアに対し「アブサヤフのメンバーは武器を買い、その妻たちはゴールドを買いまくっている」と説明し、身代金の支払いを肯定した。また武器の入手先として、国軍からの横流しがある可能性も指摘しており、多額の身代金で武装を強化したアブサヤフが、さらに誘拐事件を起こすという悪循環を懸念する声も出ている。

 またフィリピン国内でイスラム国の影響が広がりつつあり、アブサヤフやBIFFなどの組織内でイスラム国への支持表明が相次いでいる。特にアブサヤフは、ドイツ人の人質解放の条件に、ドイツ政府が米国によるイスラム国への攻撃を支援しないことを付け加えるなど、イスラム国への支持を鮮明にしており、今後もイスラム国の拡大に呼応して、外国人を狙った誘拐などの反政府活動を拡大させる恐れもある。

 このような動きに政府も強い懸念を抱いており、アキノ大統領は国軍に対しアブサヤフの掃討に加え、南部におけるイスラム国の監視を強化するよう命じた。イスラム国をめぐっては、学校で勧誘活動を行っているとの情報もあり、勢力拡大への懸念が急速に高まっている。MILFとの和平の進展に注目が集まる一方で、イスラム国の躍進により、アブサヤフなどの和平に同調しないイスラム過激派の存在感が増す結果となっており、政府はより難しい対応を迫られることになる。