対話決裂、香港デモの長期化も
2017年の香港行政長官選挙について中央政府が決めた現行案に反対する民主派の路上占拠デモをめぐり、香港政府と民主派学生団体の正式対話は直前に見送られ、デモ長期化で曲折が予想される。背後に米中のせめぎ合いがあり、台湾で3月に成功した学生の立法院(国会)占拠による政府対話とは違い、一国二制度の矛盾を背負う香港政府と習近平政権のジレンマが続く。(香港・深川耕治)
中央政府の意向を最優先 政府
デモ側 週末デモ恒例化で求心力
「対話の基礎が揺らいだ。暫定的に中止する」
9日夜、香港政府ナンバー2の林鄭月娥政務官は記者会見で10日午後に予定していた民主派学生団体・香港大学生連合会(学連)との対話を見送ることを発表した。
対話棚上げの理由として、会見前に学生側の各団体が行った政府への「非協力運動」宣言を挙げ、「それでも誠意を持って建設的な対話を目指す」として新たな対話日程合意を模索するスタンスだ。
対話呼び掛けも、棚上げもあくまで政府側が主導権を握り、対話交渉の糸口も政府の裁量次第であることを印象付けているが、交渉決裂の原因を醸成する学生側に翻弄(ほんろう)されている側面も大きい。香港政府は「中央政府が決定した普通選挙の現行案を変更することはない」(梁振英行政長官)として学生側の要求を受け入れる素地はなく、あくまで現行案の法律解釈を対話議題に持ち込む構えだ。
対話予定だった学連はあくまで現行案の見直しを求めて「民主のためにさらなる代価を払うこともできる」と抗議活動の動員強化を呼び掛けつつ、「政府が対話を臨むなら予定通り対話の場に出てきてほしい」と対話継続の意思を表明している。
混乱の発端は17年の行政長官選挙改革をめぐる中国政府が示した現行案への民主派の反発だ。中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で8月末、1人1票の普通選挙を認めても候補者は親中派が大多数を占める業界団体などから選ばれた1200人の「指名委員会」が候補者を2~3人に絞る仕組みを現行案として決定し、事実上、民主派を排除する形になった。
当初、デモを主導していた大学副教授や牧師らが発起人だったオキュパイ・セントラル(中環占拠)は、米議会の影響を受ける民間団体「全米民主主義基金(NED)」の支援を受けていることが鮮明になることで影を薄め、学連や学民思潮が路上占拠デモの主導権を握る。
持久戦の様相を呈することで学生側は対話実現ならデモ撤退を望む穏健派と、対話継続でも幹線道路の占拠を死守すべきだとする急進派で路線対立も表面化したが、対話決裂で毎週末のデモ参加者数は退潮することなく、香港経済にも悪影響を与えることで、香港政府の指導力に不満の矛先が向かいかねない。
親中派の立法会議員らは、海外から観光名目で香港入りする活動家が学生側や民主派議員と連携し、立法会(議会)ビル内に立法会占拠の臨時指揮所を設けて台湾のヒマワリ学生運動のような立法会占拠の動きを封じるために観光客の立法会ビルへの立ち入りを制限するように立法会の行政管理委員会に要求し、警戒を強めている。
親中派の民間団体「保普選反占中大連盟」は「路上デモで100万人以上の香港人が苦しみを受け、このままでは香港が地獄と化してしまう」と学生デモを批判し、「路上占拠を中止させる占拠反対の150万人分の署名活動を呼び掛ける」と表明。民主派を分断するために揺さ振りを掛けている。
中国政府の香港統治へ警戒度も格段に上がってきている。
在米の中国語情報サイト・明鏡網は9日、中国共産党序列3位の張徳江全人代常務委員長(国会議長)をトップとする香港のデモに対する特別チームが編成され、中国最高指導部である政治局常務委員会が香港での動静を「外国敵対勢力による介入」との判断を固めたと報じた。
デモに対しては「妥協せず、流血させず」が原則で梁振英行政長官を支援し、香港での情報工作のために公安部門や軍、情報機関から数百人を香港に送り込み、司法を統括する孟建柱・党中央政法委員会書記も現地を秘密視察したとしている。
香港高官の忠誠度も調査対象になっており、民主派を影で支援する面従腹背の人物をあぶり出す指示も出ており、中国共産党機関紙「人民日報」も米国の露骨な介入を批判している。
香港誌「亜洲週刊」の邱立本編集長は同誌最新号の巻頭コラムで「路上デモでまかれた民主の種は最終的に香港独立へ向かう。香港大学の学生新聞『学苑』には香港民族論がたびたび出ており、分離独立論が浮上している」と述べており、デモ長期化で学生側が香港独立派の急先鋒(せんぽう)になれば、台湾だけでなく、チベットや新疆ウイグルなど国内の民族独立派に運動が連携転化されることを中国政府としては最も憂慮している。