フィリピンで警官による凶悪事件続発
国家警察長官に汚職疑惑も
フィリピンで警官による犯罪が多発し、警察組織への信頼低下に拍車が掛かっている。その犯行は本格的な捜査さながらに、武装した複数の警官が市民を拉致するというもので、極めて計画的で悪質なものだ。また国家警察長官への汚職疑惑も浮上するなど、国民の警察に対する不信は高まるばかりとなっている。(マニラ・福島純一)
白昼に市民拉致し現金奪う
現地のニュースではこのところ「hulidap(フリダップ)」という言葉が頻繁に登場するようになった。これはタガログ語の「huli(逮捕)」と英語の「hold up(ホールドアップ)」を掛け合わせた造語で、警官が市民を不当逮捕して恐喝する行為を指す。警官の腐敗は、このような言葉が生まれるほど普遍的な社会問題となっている。
9月1日、首都圏の幹線道路エドサ通りで、銃で武装した集団が1台の乗用車を強制的に停車させ、運転手を拘束して逃走する様子を複数の市民が目撃。その様子を撮影した写真がインターネット上で拡散し、メディアが取り上げるなど大きな注目を集めた。
当初はあまりに堂々とした犯行から、警察による逮捕劇との臆測も流れたが、写真に写っていた車両を特定した結果、現役の警官たちによる誘拐事件であることが発覚。犯行に関与したのは、ケソン市警察に所属する9人の現職警官と1人の元警官で、会社員の男性を誘拐し、所持していた200万ペソ(約480万円)を強奪した。
この事件の約1週間後には、同じく首都圏で、中国人男性が高架鉄道の駅にいたところを3人の警官に誘拐される事件があった。男性は乗用車に乗せられ首都圏郊外に連れて行かれたが、警官たちが居眠りをしている間に逃げ出すことに成功。しかし警察に不信を抱いて事件を通報することもできず、ゴルフ場の茂みに隠れているところを警備員によって保護された。男性は身代金を要求されたと証言している。
さらにその翌週には、マニラ市の警官が、自動車販売業を営むパキスタン人の男性に、窃盗車両を扱っているとぬれぎぬを着せて警察署に連行し、釈放と引き換えに30万ペソ(約73万円)を要求。交渉の結果、10万ペソを支払って解放された男性が、国家警察本部に助けを求め、警官7人の犯行が発覚した。
これだけ世間の注目を集めながらも、さらに繰り返される警官による不祥事に、プリシマ国家警察長官の辞任を求める声が高まっている。しかし、ロハス内務自治長官は「99%の警官は職務に忠実だ」と述べ、不正を行う警官はほんの一部にすぎないと主張。さらにアキノ大統領も、一連の事件に関し、「メディアがセンセーショナルに報じ過ぎている」と批判。さらに「ならず者の警官が存在することは確かだが、それを逮捕できたのはプリシマ長官のリーダーシップがあってこそだ」とプリシマ氏を擁護し、国民に警察を信頼するよう呼び掛けた。
一連の事件で逮捕された警官の中には、過去に同様の事件を起こしながらも、復職した者が含まれていることも発覚しており、組織の自浄作用が働いていない実態も浮き彫りになった。これに関してロハス氏は、「一度、問題を起こした警官は復職させるべきではない」と指摘し、全ての警官の経歴を調べ直す方針を示している。
一方、現地メディアは、警察関係者の内部告発として、警察組織内に上司が部下から集金を行うシステムが存在すると説明し、このノルマが警官を違法行為に走らせる一因になっていると指摘。また、売人から押収した違法薬物の横流も横行しており、これを上官が黙認するなど、警官の収入源になっていると内情を暴露している。
さらにここにきて市民グループが、プリシマ長官が自宅の資産価値を大幅に低く申告している疑惑や、国家警察本部の敷地内にある長官官邸の修理をめぐる収賄疑惑を告発。相次ぐ不祥事を受け、下院議長や上院議員などからは、プリシマ長官の辞任や早期退職を求める声も高まるなど、警察組織の信頼構築は、さらに厳しさを増すばかりとなっている。