香港・民主派、金融街占拠へ散発的抗議
全人代の選挙改革案に反発
北京で1週間にわたる全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会の集中討議が31日に閉幕し、2017年に行われる香港の次期行政長官選の普通選挙案が明示される。選挙改革案は普通選挙の導入を約束しつつも立候補資格を制限して親中派の立候補者以外を締め出す仕組みとなるため、香港の民主派は9月初旬から香港の金融街・セントラル(中環)を大衆で埋め尽くす抗議活動を散発的に計画し、9月下旬に本格化させる動きだ。(香港・深川耕治、写真も)
間接選挙からの脱却遠く
香港では1997年の中国返還以降50年間、「一国二制度」の下、民主制度が存続できる「高度な自治」が認められている。
香港の憲法に当たる香港基本法では、香港トップの行政長官と立法会(議会)の全議員を「最終的に普通選挙で選ぶ」と明記しており、中国は2017年の行政長官選挙からの導入を容認する方針を示してきた。
これまで香港行政長官選挙は業界団体代表など選挙委員1200人による行政長官の選出という間接選挙で中央政府の支持する候補者が当選する仕組みだったので内外の批判が強かった。17年3月に行われる次期行政長官選挙では、立法会議員や産業界代表らでつくる「指名委員会」が次期行政長官の候補者を複数指名した後、18歳以上の有権者が1人1票を投じて選ぶ普通選挙方式となる。
親中・親政府派は第1段階である候補者選定では親中派が大多数を占める指名委員会が民主派候補を事実上排除できる仕組みにしようとする一方、民主派は有権者の一定支持があれば誰でも立候補できる「有権者指名」を要求し、対立が鮮明化。最終決定は香港基本法の解釈権がある全人代常務委の決定に丸投げし、香港政府はその指示を仰ぐ形となっている。
全人代での討議に先立ち、香港の民主派は中央政府当局者と会談を重ね、選挙制度改革案にどの程度、民主派の意見が反映されるか見定めようとした。
8月17日から3日間、民主派の立法会議員らと会談した中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁=旧新華社香港支社)の張暁明主任は「中国本土と香港は中央と地方の関係であるため、中央と民主派に対等の交渉は存在しない」と断言。
21日から2日間、香港と隣接する広東省深●(=土ヘンに川)市内で香港の民主派立法会議員14人と単独会談を行った全人代常務委の李飛副秘書長は「民主派の大多数は愛国愛港(香港を愛する)だ」として指名委員会や行政長官候補の資格は党派で線引きしないと明言する一方、「返還後、中央の統治権を認めない一部の者が植民地統治の維持を画策する勢力と結託して国家安全を脅かしている」として中央に敵対する香港独立主義者は行政長官になれないことを強調している。
急進的な違法デモだけでは中央政府の方針は変わらないと見始めた民主派は、劣勢巻き返しのために中央政府官僚との政治交渉で実を取り、妥協点を見いだそうと模索したが徒労に終わった。
全人代常務委は25日から1週間の会議で香港の選挙制度改革について集中討議。26日、全人代常務委の張徳江委員長は「行政長官は愛国愛港が基本条件。国家の安全を考慮し、さまざまな状況に対応する準備がある」と述べ、香港行政長官選での立候補者数は「多くの委員が外国勢力による干渉を懸念している。4分野1200人で構成される指名委員会で過半数の支持を得た2~3人が上限」(香港紙「星島日報」)との捉え方でまとまったとしている。
香港基本法に従い、今後発足する指名委員会メンバーの過半数の支持を得た候補者だけが立候補できる制度に変え、親中派が大多数を占める見込みの指名委員会が民主派の候補者を事実上排除することが確実となったことで民主派の猛反発は強まるばかりだ。
「有権者指名」が拒絶された場合、香港の金融街を大群衆で埋め尽くす抗議活動「セントラル占拠」を実行する発起人の一人である戴耀廷氏は28日、「(中央政府の決定した)改革案に憤怒し、失望した。金融街占拠で拘束される参加者を支援する弁護士グループ30人が結成され、31日には抗議集会を開くが、金融街占拠は当日はしない」と述べた。
学生団体「学連」や「学民思潮」は9月中下旬に授業ボイコットを開始し、民主党など民主派政党はセントラル占拠計画に合流し、大規模な抗議活動を展開していくことで合意。9月から毎週、抗議活動を展開し、金融街占拠の具体的日程を絞り、9月下旬には実行する準備を進めている。台湾と同様、学生らの動きが民主派や無党派、中間穏健派にどの程度、波及するかが金融街占拠の鍵となりそうだ。
一方、1999年にポルトガルから中国に返還されたマカオでは8月31日、行政長官選挙が行われ、立候補者が中国の後押しを受ける現職の崔世安(フェルナンド・チュイ)氏1人のため、信任投票の形となり、当選は確実視されている。
マカオのトップを決める行政長官選挙は親中派が大多数を占める400人(先回から100人増員)の選挙委員会委員による間接選挙。次回、2019年の行政長官選挙から普通選挙が導入される予定だが、民主派が弱体化するマカオでは香港のような大規模な民主化デモは行われていない。中国は一国二制度の成功例としてマカオを香港と対照化させる戦略だが、中国が統一工作を進める台湾では香港の選挙制度改革でむしろ警戒感が高まっている。