アキノ比大統領の高支持率に陰り

裁量予算に違憲判決

賄賂疑惑で弾劾告発相次ぐ

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原爆死没者慰霊碑に花輪をささげるフィリピンのアキノ大統領(手前)=6月24日午後、広島市の平和記念公園

 就任以来、高い支持率を維持してきたフィリピンのアキノ大統領に対する国民の信頼が、大きく揺らいでいる。複数の世論調査でアキノ氏に対する支持率が急落している実態が浮き彫りとなった。大統領府の裁量予算が最高裁で違憲と判断されただけでなく、上院議員への賄賂に使われた疑惑も浮上し、汚職撲滅を掲げてきたアキノ政権にとって大きな痛手となっている。このような状況下、次期大統領選をめぐっては、野党が勢いを取り戻しており政権交代の可能性も見え始めた。(マニラ・福島純一)

 これまでアキノ政権は、アロヨ前大統領に対する国民の反発や、「汚職なければ貧困なし」をスローガンにした汚職撲滅運動で得た絶大な支持を背景に、前大統領派の最高裁長官を弾劾に追いやり、優先開発補助金(ポークバレル)の横領疑惑で野党の上院議員3人を逮捕に追い込むなど、強引な政敵つぶしも行ってきたが、ここにきて、その勢いにも陰りが見え始めている。

 民間調査会社のパルス・アジアが、6月から7月にかけて実施した世論調査によると、アキノ大統領の支持率は53%となり、前回の69%から大きく下落していることが明らかとなった。一方、6月に行われたソーシャル・ウェザー・ステーションによる世論調査でも、満足から不満の評価を引いた純満足度の数値が25ポイントとなり、前回3月に行われた調査の45ポイントから大幅な低下を見せた。それぞれの調査は1200人の国民を対象に行われた。

 支持率の低下の原因としては、大統領府の裁量予算である支出促進計画(DAP)が最高裁によって違憲と判断されたことが大きいとみられている。この判決をめぐりアキノ大統領は、あくまでも予算の正当性を主張し最高裁の判断を強く批判しているが、この予算がアロヨ前大統領派の前最高裁長官の弾劾で、上院議員への賄賂として使用された疑いも浮上しており国民の失望に拍車を掛けている。さらにこの問題で、アバド予算管理長官が出した辞表をアキノ氏が受理しなかったことも、最高裁への批判と合わせ、独裁的なマイナスイメージを国民に印象付けた。

 このような状況下、民間調査会社のパルスアジアが発表した次期大統領選に関する世論調査では、野党が優勢となっている。首位は41%の圧倒的な支持を集めたビナイ副大統領、2位は12%を集めたポー上院議員、そして3位は9%でエストラダ元大統領(元マニラ市長)となっており、アキノ氏の後継者として次期大統領選への出馬が有力視されているロハス内務自治省長官は、7%の支持で4位と危機的な状況となっている。ロハス氏は前回の大統領選で与党の統一候補だったが、コラソン・アキノ元大統領の死去に伴い、当時、上院議員だったアキノ氏の出馬を求める支持者の声が高まり、大統領選への出馬を譲ったという経緯がある。

 最高裁による違憲判決や賄賂疑惑を受け、複数の議員や団体からアキノ氏に対する弾劾告発が相次いでいるが、今のところ上下院で与党が優勢のため弾劾成立は困難な状況だ。しかし、次期大統領選での野党有利の見通しを受け、政権末期に野党にくら替えする与党議員が多く出て来た場合、弾劾審議に影響を与えてくる可能性もある。今後レームダック化が急速に進む恐れもあり、スケジュールの遅れが懸念されている、新しい自治政府(バンサモロ)の創設を軸としたイスラム武装勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平に影響を及ぼす可能性も考えられる。

 また政治問題だけでなく、国内経済が発展する一方で経済格差に不満を抱く貧困層も増えており、28日に予定されている施政方針演説で、どのように国民の信頼回復を図るのかに注目が集まる。