中国の南洋進出を牽制、安倍首相のパプアニューギニア訪問

 オセアニア歴訪の安倍晋三首相は10日、豪州に次ぎパプアニューギニアを訪れた。日本の首相がパプアニューギニアを訪れるのは1985年の中曽根康弘元首相以来、29年ぶり。首相があまりなじみのないニューギニアに足を踏み入れたのは、中国の南洋進出を牽制(けんせい)する戦略思考が働いている。(池永達夫)

南洋版「真珠の首飾り」戦略

警戒強める日米豪

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首都ポートモレスビーで共同記者発表に臨む安倍晋三首相とパプアニューギニアのオニール首相=10日(AFP=時事)

 「海洋大国」を打ち出した中国の習近平政権は、尖閣諸島や南シナ海、インド洋だけでなくフィジーやパプアニューギニアなど南洋諸島にも進出している。

 だがそもそも、パプアニューギニアはトルコや台湾同様、親日国家だ。

 その理由を丸谷元人氏が『ココダ遥かなる戦いの道』(ハート出版)で明らかにしている。それは日本兵の遺徳によるものだという。丸谷氏によると、第2次世界大戦時、パプアニューギニアは日本軍が豪州軍と相まみえた激戦地だった。悪鬼のような日本兵が野蛮の限りを尽くしたように思われているが、事実はまったく違い、日本兵は白人のように威張らず、島民たちと一緒になって生活し戦った。だから、ほとんどの現地人は日本人が大好きで、ぜひもっと日本人にパプアニューギニアに来てほしいという。

 しかし、パプアニューギニアの住民が欲する日本人が来ることはなく、代わりに中国人がドンドン進出するようになった。

 丸谷氏の表現を借りると「人民元を大量に詰め込んだズダ袋をいくつも担ぎ、『あなたたちを白人の新植民地から解放してさしあげましょう』と魅力的なスローガンとともに颯爽と現れたのが中国だった」(「日本の南洋戦略」から)という。

 強欲な中国人はだまして物を盗み商売するといううわさがあったが、パプアニューギニア人はとりあえず経済開発に必要な資金を中国に頼ることにした。

 その結果、パプアに対する中国の大規模投資が急増し、今や中国はマダン州のレアメタル鉱山や水産工業団地の建設、石油や天然ガス産出地域の道路建設など、2012年に中国が拠出した70億キナ(約3100億円)ものソフトローンを元手に中国の進出が怒濤(どとう)のように始まっている。

 とりわけ懸念されるのが南洋諸島における中国海軍の拠点作りだ。既に中国は、パプアニューギニア最大のラエ国際港の拡張工事を落札し工事に入っている。さらに中国人民解放軍は近い将来、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーに海軍基地を作ることを検討中とされる。

 中国は近年、パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港、バングラデシュのチッタゴン港、ミャンマーのチャオピュー湾など、軍事利用を念頭に港湾整備を支援、インドを囲い込む「真珠の首飾り」戦略を進めている。日本や米国、豪州が懸念するのは南洋諸国版「真珠の首飾り」戦略の発動だ。

 ただ、急に進出してきた中国が、パプアニューギニアをはじめとした南洋諸国の人々に心から歓迎されているわけでは決してない。商売に無知な現地人をだましてヤクザまがいの暴利をむさぼったり、安い賃金で危険な重労働に押しやったりするため、中国人というのは本音では、かなり嫌われているのが現状だ。

 事実、2006年にはトンガとソロモンで、09年にはパプアニューギニアで大規模な反中国暴動が起き、中国人商店などへの焼き討ちが発生した。

 しかし、こうした暴動を逆手に取って政治利用するのが中国のすごみだ。つまり大規模な反中暴動が発生した場合、「自国民保護」を名目として人民解放軍を現地に急派するかもしれず、南洋諸国における中国軍のプレゼンスを一気に許してしまう事態につながるリスクが存在する。

 「今回の訪問を契機に両国関係を一層発展させ、太平洋地域の平和と繁栄のために、両国で協力しながら貢献していきたい」

 安倍首相は10日、パプアニューギニアのオニール首相との首脳会談後の共同記者発表で、こう述べ、南洋諸島支援に力を入れる考えを強調した。我が国に期待されるのは、中国の野心を打ち砕く南洋諸島に対する継続力のある戦略的外交だ。