比南部ダバオにテロの脅威
フィリピン政府とイスラム武装勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平合意で、正常化に期待が集まるフィリピン南部情勢だが、ほかのイスラム過激派は、依然として反政府活動を続けており、治安上の大きな懸念となっている。フィリピン第三の都市と呼ばれるミンダナオ島のダバオ市では、最近になりイスラム過激派によるテロの脅威が確認され、厳戒態勢が敷かれるなど緊張が走っている。(マニラ・福島純一)
イスラム過激派が計画か
JI爆弾専門家関与の情報も
6月下旬、ダバオ市のドテルテ市長は、イスラム過激派によるテロの脅威があるとして、同市内での警戒を引き上げたことを明らかにした。同市長によると、ミンダナオ島のダバオ市、カガヤンデオロ、コロナダル、キダパワンなどの各地で、イスラム過激派がテロを計画しているとの情報があることから、警戒を強化するようアキノ大統領から連絡があったという。同市内では、国軍と警察による検問が24時間体制で行われており、少なくとも8月まで続けられる見通し。8月には同市内で恒例となっているお祭りが予定されており、多くの観光客が訪れるためさらに緊張が高まる可能性もある。
テロを計画している組織に関しては不明となっているが、国軍筋の情報では、このところ幹部や構成員の逮捕が相次いでいるイスラム過激派のアブサヤフによる報復テロの可能性や、フィリピン南部に潜伏を続けている東南アジアのイスラム過激派、ジェマ・イスラミア(JI)の爆弾専門家のアブデル・バシット・ウスマン容疑者が関係する新しいテロ組織によるものとの情報もある。
アブサヤフをめぐっては、6月にマニラ首都圏で、資金調達の役割を果たしていた指名手配中の幹部、カイル・ムンドス容疑者が逮捕されている。同容疑者は、過去にフィリピン南部で複数の爆弾テロに関与した疑いで逮捕されたが、アブサヤフが刑務所を襲撃し脱獄に成功。米政府が50万ペソの懸賞金を出すなど、重要テロリストとして治安当局がその行方を追っていた。
またサンボアンガ市では6月16日に、身代金目的の外国人誘拐に関与した構成員が2人逮捕されているほか、18日にはアブサヤフの拠点があるスルー州で、掃討作戦を行った国軍部隊とアブサヤフが交戦となり、国軍兵士7人が死亡、13人が負傷している。治安当局はアブサヤフへの摘発に力を入れる一方、報復テロの可能性もあるとみて警戒を強めている。
最近のアブサヤフは、テロ活動よりも活動資金を得るための身代金目的の誘拐を活発に行っており、特に高額な身代金を期待できる外国人を狙った誘拐をフィリピン南部で繰り返している。国軍によると6人の外国人を含む、少なくとも10人の民間人がアブサヤフに人質として拘束されている。
一方、JIのウスマン容疑者をめぐっては、国軍が6月中旬に爆弾製造の拠点を急襲して逮捕を試みたが失敗し、同容疑者は負傷しながらも逃走した。この拠点では、MILFの和平反対派が分離して組織されたイスラム過激派のバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)に、同容疑者が爆弾製造の技術を教えていたとされている。そのBIFFも活動拠点であるマギンダナオ州やその周辺で、路肩爆弾を使用した国軍への攻撃を活発化させており、国軍側に多数の死傷者が出ている。
このような南部の情勢を受け、在フィリピン日本国大使館は、ミンダナオ島におけるテロの脅威に関する注意喚起を行い、現地での情報報集や不特定多数の人が集まる場所にできるだけ近づかないよう呼び掛けるなど、渡航する国民に警戒を求めている。