「スカルノ」か「スハルト」か、インドネシア大統領選
先行する庶民派のジョコ氏、元軍人プラボウォ氏が急追
7月9日のインドネシアの大統領選挙投開票日まで2週間余となった。選挙は4月の総選挙で得票率1位の野党・闘争民主党などが推すジャカルタ州知事のジョコ・ウィドド氏(52)と、第3党になったグリンドラ党などが推す元軍人のプラボウォ・スビアント氏(62)の一騎打ちとなる。当初、庶民派ジョコ氏がリードしたものの、ここにきて強いリーダー像を前面に打ち出したプラボウォ氏が急追する格好になっている。(池永達夫)
元大統領のイメージ利用し選挙戦
大統領は約1億9000万人の有権者による直接選挙で選ばれる。
ジョコ氏の公約は、任期5年で貧困率を5~6%に半減。プラボウォ氏は「ジニ係数」(1に近いほど所得格差が大きい)を0・41から0・31に低下させる目標を掲げる。
またインフラ整備に関しては、ジョコ氏は空港や港湾、工業団地(各10カ所)や2000㌔の道路の建設を表明。プラボウォ氏は、3000㌔の国道・橋梁(きょうりょう)を増設するほか、地熱発電の振興などで電化率を5年間で100%にし、渋滞などで物流効率が悪い首都の移転計画にも着手すると表明した。
結局、大統領候補のジョコ氏とプラボウォ氏が訴える政策は、共に貧困削減やインフラ開発など「自立経済」をゴールにした成長路線で両者の違いはない。
両者の違いは出自とイメージの違いだ。
ジャカルタ州知事のジョコ氏はもともとは、貧しい家で生まれ、家具の輸出業などで成功した。そして2005年、ジャワ島中部にあるスラカルタ(通称ソロ)市長、一昨年、ジャカルタ州知事に就任した庶民派だ。ただ中央政界の経験はなく一国のリーダーとしての力量は未知数だ。
一方のプラボウォ氏はスハルト時代の軍人でスハルト元大統領の娘と結婚し、陸軍戦略予備軍司令官など権力に近い座にいたが、民主化勢力の拉致命令に関与したとして、軍籍を奪われヨルダンに亡命していたが、帰国後に政治活動を活発化。前回の大統領選ではメガワティ前大統領と組んで副大統領候補として出馬した経緯がある。その後、妻とは離婚し、現在は独身だ。
また両候補は、歴代の大統領のイメージを利用している。ジョコ氏を推す闘争民主党党首のメガワティ前大統領は、初代大統領のスカルノ氏の娘だ。ジョコ氏が立候補を表明する時も、スカルノ氏にゆかりのある博物館で行うなど、スカルノ氏のイメージを前面に打ち出している。
片やプラボウォ氏もスハルト元大統領の義理の息子だっただけに、スハルト氏の影響を大きく受けており、選挙戦が始まって間もなく、スハルト氏のお墓を訪れている。大統領候補者双方がそれぞれ選挙戦略として元大統領のイメージを利用している。
両候補は全国各地で遊説を行うとともに、テレビ討論などで持論を展開し支持拡大を図っている。
民間調査会社LSIの世論調査(5月上旬)でジョコ氏の支持率は35・4%。プラボウォ氏は22・8%と、清廉で決断力のある庶民派ジョコ氏の優勢が伝えられていたが、最近の世論調査によると、プラボウォ氏が急追し、その差は徐々に狭まりつつあり、一部の調査では逆転現象も見られる。
なおジョコ氏が所属する闘争民主党など4党連合の勢力は総選挙の得票率で40%、207議席。グリンドラ陣営の6党連合は49%、292議席で、国会過半数(281)を上回る勢力を確保している。
ただ有権者の4割がまだ誰に投票するか決めていないため、浮動票がどちらに流れるかで大勢が決まる可能性が高く、最後まで目が離せない状況だ。
大統領選は投開票日の7月9日中にも大勢が判明する見通しで、新大統領は10月20日に就任する。
人口2億4500万人を擁し、国内総生産(GDP)8500億㌦のインドネシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の人口およびGDPのおよそ4割を占める大国だ。
2015年にASEANの共同体発足を控える中、ASEANの盟主役を長年、託されてきたインドネシアの次期大統領が誰になるのか注目される。