インド、空母3隻体制へ
海洋大国へ動く中国に対抗
国防費は10年で3倍に
今春、中国人が大勢乗っていたマレーシア機が墜落した際、中国はインドに対しアンダマン海のアンダマン・ニコバル諸島周辺の捜索許可を求めたがインドはこれを拒否した。アンダマン・ニコバル諸島にはインド海軍基地があり、その偵察を嫌ったためだ。インドの貿易相手国は中国がトップに躍り出るなど経済関係は強くなっているが、同時に中印戦争で煮え湯を飲まされたインドの安全保障面での中国不信は根強いものがある。海洋大国を目指す中国を牽制(けんせい)するためインドの国防費は、この10年で3倍化し、空母も3隻体制へ向け整備されつつある。(池永達夫)
ロシアがインドに売却した空母「アドミラル・ゴルシコフ」(4万4500㌧)が昨年11月、改修を終えて引き渡され、「ビクラマディティヤ」と改称された。この空母は2004年に9億7400万㌦で基本契約が結ばれたものの、インド側が装備の刷新を求めてもめ、最終的に23億㌦で妥結していたものだ。同空母はインド独立以来、歴史的な関係が強いロシアからの武器調達のパイプを再び大きくしている中でも、最大の目玉商品だった。
また昨年8月には、インド南部コーチンで同国初の国産空母「ビクラント」(排水量約4万㌧)の進水式が行われた。「ビクラント」はロシアから購入したミグ29戦闘機などを搭載し、18年に正式に配備される予定だ。インドは現在、英国製空母「ヴィクラート」(約2万8000㌧)を1隻保有している。これでインド海軍は空母3隻体制の整備が進み、搭載機の確保と乗員訓練を経て正式に機動部隊が動くことになる。
さらにインドは昨年8月、核弾頭が搭載可能な国産原子力潜水艦「アリハント」の原子炉の臨界到達に成功。インドは米露英仏に次ぐ空母保有や長距離核弾頭を搭載した原潜など海軍増強を急ピッチで進めることで、海洋大国を国是としてインド洋にも進出を始めた中国を牽制する意向だ。
インドの軍備増強ぶりは、軍事費で見ると10年前の約3倍となり、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、インドは取引額ベースで世界最大の兵器輸入国として浮上している。その兵器購入の大半をロシアに依存しているが、インドはバランスを考慮し、米国とも武器購入交渉を始めている他、日本や米国との合同軍事演習などで協力関係を維持している。
インド政府は今年初め、14年度の暫定予算案を発表した。国防費は昨年に続き10%増で2兆2400億ルピー(約3兆7000億円)。「真珠の首飾り」と称される拠点構築などインド洋進出を図りつつある中国を牽制する軍備増強を推進している。
「真珠の首飾り」というのは、パキスタン西部のグワダル港やバングラデシュのチッタゴン港、それにミャンマーのチャオピュー港、スリランカのハンバントタン港などインドを取り囲む格好で中国が資金提供し各国の港湾整備に動いていることをいう。これが単に経済活動のためのインフラ整備という次元ではなく、いずれ軍事基地に変わることを想定した布石だとみるのは誰しもが共有する常識となっている。
わけても昨年春、パキスタン西部のグワダル港の運営権が、シンガポール系企業から中国の国有企業に移っている。
アラビア海に面したグワダル港は、中東からアジアへの石油輸送の要所ホルムズ海峡に近い戦略的要衝の地だ。
一方、中国のインド洋南進に向けた対抗軸として、インドも海外基地構築に動きだしている。インド軍は、インド洋西部のマダガスカルとモザンビークに情報収集基地を設置し、中国に隣接するカザフスタンにも関連基地を設置した。
また、アンダマン海東部のアンダマン・ニコバル諸島の海軍基地も大幅な戦力増強を図りつつある。これは中国の南進ルートの一つであるミャンマーのチャオピューをアンダマン海から牽制する意図を込めている。だからこそ今春、マレーシア航空機墜落の捜索に名を借りた中国のアンダマン・ニコバル諸島近辺の偵察を拒否したのだ。