米大統領初の訪比、同盟関係の強化図る
新軍事協定で米軍回帰
中国への牽制に期待
このほどオバマ米大統領が、アジア歴訪の最後の国としてフィリピンを初訪問した。フィリピンは南シナ海にある島々の領有権をめぐり、中国からの激しい圧力にさらされており、同盟国としてどの程度の安全保障が期待できるのか、オバマ氏の発言に注目が集まった。今回のオバマ氏の訪問に合わせ、フィリピン国内における米軍の軍事施設の利用などを認める新軍事協定が締結され、中国への牽制(けんせい)に期待が集まる一方、一部の上院議員からは事実上の米軍駐留を認める内容が違憲との指摘もあり賛否が分かれている。(マニラ・福島純一)
4月28日にフィリピンを訪問したオバマ大統領は、マニラ首都圏にあるマラカニアン宮殿(大統領府)でアキノ大統領と会談を行い、その後、共同記者会見に臨んだ。その中でオバマ氏は、両国の関係が「新たな段階に入った」と指摘し、新軍事協定の締結など同盟関係の強化を歓迎した。また中国との緊張が高まる、南シナ海の領有権問題をめぐっては、軍事的な衝突ではなく、国際法にのっとった平和的な解決を求め、フィリピンが進めている国際仲裁裁判所への提訴を支持した。
しかし、その一方で、フィリピンを含むアジアにおける米軍のプレゼンスの強化に関して、「中国に反撃したり封じ込めたりすることが目的ではない」と述べ、米国は領有権問題に関して、あくまでも中立の立場を取る姿勢を強調。フィリピンにおける米軍の展開に神経をとがらせる中国への配慮もうかがわせた。
この発言でフィリピン国内では、「米軍はフィリピン防衛で軍事行動は取らない」とのオバマ氏への落胆が広がったが、翌日に国軍基地で行われた演説では、「フィリピンの防衛はわれわれの鉄則であり、米国はその義務に責任を持つ」と明言し、両国の強固な同盟関係を強調した。
今回のオバマ氏訪問に際し、最も注目を集めたのがフィリピンにおける米軍の活動拡大を図る新軍事協定の締結だ。国内世論の高まりにより1992年に撤退した米軍の再駐留を事実上認める内容であり、米軍の撤退を機に、南シナ海での実効支配を強めてきた中国への強い牽制が期待されている。この協定により、クラーク空軍基地やスービック米海軍基地に、再び米軍が展開する見通し。新協定は有効期限が10年となっているが、さらに延長される可能性もある。
新軍事協定をめぐっては、以前から米政府と話し合いが行われていたが、その内容をめぐって締結が難航していた経緯があり、今回のオバマ大統領の訪問に合わせ、無理に締結を急いだとの見方も出ている。また依然として協定の詳細が公表されていないことも反対派の疑念を強める結果となっており、一部の上院議員は、「米軍の再駐留を認める内容であり、外国軍の駐留を禁止する憲法に違反する」と指摘し、上院による批准が必要と主張。さらに最高裁に提訴する動きも見せており、今後、議論が高まる可能性もある。
大統領府の周辺では、オバマ氏の訪問に合わせ、左派系団体を中心に新軍事協定に反対する大規模な反米集会が行われ、警官隊とデモ隊が衝突するなど、緊張が高まる場面もあった。
南シナ海では、フィリピンが実効支配しているアユンギン礁に向かう補給船が、中国の巡視船に何度も航行を妨害されるなど、中国のフィリピンに対する激しい挑発行為が続き緊張が高まっている。新軍事協定がどの程度、領有権問題における中国への牽制となるのか、今後の展開に注目が集まる。