中国の習総書記が腐敗根絶を盾に他派攻撃
周永康氏封殺、最終段階へ
中国の習近平指導部は、汚職容疑で最高指導部のメンバーだった周永康・前共産党政治局常務委員(前党中央政法委員会書記)を追い詰めている。引退後も息のかかる四川省、党政法委、石油閥ルートだけでなく山西省幹部の拘束も本格化して外堀を埋め、江沢民派である周氏本人も軟禁状態に置かれているとされる中、「反腐敗」で結束しようとする習政権の権力基盤固めに大きな異変が起こり始めている。(香港・深川耕治)
太子党浮上で基盤固め
2012年11月の第18回党大会で周永康氏が引退すると、習近平指導部は、汚職を取り締まる司令塔である党中央規律検査委員会書記に習氏と同じ太子党(党幹部子弟)の王岐山氏(政治局常務委員)を据え、「反腐敗」を名目に自派と敵対する勢力の汚職摘発を本格的に強化し始めた。
習総書記は昨年1月、「“老虎(トラ)”と“蒼蠅(ハエ)”を一網打尽にし、指導幹部の規律違反や違法行為を断固として調査・処罰せねばならない」と話し、老虎(汚職する指導幹部)も蒼蠅(地方の汚職官僚)も例外なく取り締まる方針を宣言。
わずか500日で省レベルの高官26人を拘束して取り調べたほか、四川省幹部、石油閥、党政法委、軍幹部、団派(共産主義青年団派)の色彩の強い山西省幹部まで拘束し、周永康氏の側近を次々と逮捕しただけでなく、胡錦濤前国家主席や李克強首相に連なる団派ニューリーダー候補にまで捜査の手を伸ばして党内の権力基盤を大きく変えようとしている。
約30年にわたって中央規律検査委で汚職捜査を担当し、2月から国家予防腐敗局副局長となった崔海容氏は香港紙「明報」などの取材に対し、「人民の老虎退治への期待は高まるばかりだ。どんな虎も例外なく不正があれば査問する」と世論を味方に付ける形で強気の姿勢を一貫させている。
中国で昨年来、「大老虎」(大トラ)と言えば、周永康氏を指し、胡錦濤前政権時代、江沢民元国家主席の庇護(ひご)を受けながら絶大な権力を握ってきた。北京石油学院(現・中国石油大学)卒業後、石油業界で石油閥として権勢を振るい、四川省トップの同党委書記を経て2002年に公安相、07年には最高指導部の政治局常務委員(党序列9位)となり、公安・司法を統括する党中央政法委書記に就任して公安・司法分野を牛耳ってきた。
ところが、昨年11月、周氏が引退後、李春城四川省党委副書記(当時)、腹心中の腹心だった郭永祥元四川省副省長、李崇禧四川省政治協商会議主席(当時)ら周氏の元側近が相次いで失脚し、実弟(周元青氏)夫婦や長男(周浜氏)が拘束されるなど、周氏への包囲網は狭まり、昨年12月以降、党中央から監視下の軟禁状態に置かれているとされる。
香港各メディアや米華字紙は「大トラ退治の公表は時間の問題」と盛んに報じ、沈黙してきた中国各紙も3月3日付で国内報道を解禁。前日、全国政治協商会議の呂新華報道官が記者会見で周氏をめぐる問題について「私が答えられるのはこれだけ。あなたもお分かりでしょう」と回答し、周氏が党の調査を受けていることを示唆。「あなたもお分かりでしょう」は国内で流行語になりつつあるほど反響を呼んだ。
従来、最高指導部である党政治局常務委員の経験者に対しては刑事責任を追及しないのが慣例。世論醸成を追い風に最高指導部経験者が汚職容疑で追及されるとすれば、1949年の新中国建国以来、初めてとなり、中国の政治、社会に与える衝撃と影響は大きい。
反腐敗の取り締まりに対する徹底ぶりは胡錦濤前政権とは格段に違う。
第18回党大会後、習指導部は汚職取り締まりの専属となる中央巡視チームを結成。昨年5~8月、昨年10月~今年1月にかけて11省(湖北、内モンゴル、重慶、貴州、江西、吉林、山西、安徽、広東、雲南、湖南の各省)9部門(水利省、中国出版集団、中儲糧総公司、中国進出口銀行、中国人民大学、商務省、新華社、国土資源省、三峽集団)の計20チームを新設し、計82人の汚職を摘発。中国紙「新京報」などによると、さらに中央巡視チームを増やして各部門の現場に常駐させ、汚職捜査を強力に進めている。
王岐山書記の秘書で中央巡視工作領導小組弁公室の黎曉宏主任は「発覚した問題は中央に報告する。病気を見つければ病状によって注射したり、薬を処方し、手術する。最後は主治医(党指導部)の判断次第」と話している。
汚職摘発キャンペーンが激化する中で、規律検査委が約1年半で取り調べた幹部は地方を合わせて285人。17日には大手国有企業「華潤集団」のトップで江沢民派や団派に近い宋林・会長兼党委書記(次官級)を拘束した。失脚した幹部に習国家主席が率いる太子党は極めて少なく、大半が江沢民派と団派に集中していることが特徴だ。
習指導部は昨年11月、国内の治安強化を名目に国家安全委員会を新設し、習近平国家主席をトップに多発する暴動や抗議活動への対策を一元化しようとしているが、香港誌「前哨」の劉達文編集長は「周永康氏の包囲網を見ても、胡錦濤前政権時代、江沢民派に分散されていた権力を国家安全委員会や全面深化改革指導小組の設置で習氏に一極集中させ、汚職取り締まりで江沢民派、団派の弱体化を進め、権力基盤を塗り替えるしたたかな戦略が透けて見える」との見方をしている。