中国巡視船がまた挑発、アユギン礁へのフィリピン補給船を妨害

 南シナ海の領有権をめぐり、中国のフィリピンに対する挑発が繰り返され緊張をさらに高めている。今度は南沙諸島でフィリピンが実効支配するアユギン礁に向かっていたフィリピンの船が、中国巡視船の妨害を受け、補給を断念させられた。南シナ海をめぐっては、1月にもスカボロー礁で中国の巡視船がフィリピンの漁船に放水を行い、フィリピン外務省が中国政府に強い抗議を行ったばかり。中国の挑発的な行動に、同盟国の米国政府からも非難の声が上がっている。(マニラ・福島純一)

米、緊張を高めると非難

海軍の監視所、座礁船の撤去 比は拒否

比の基地、米と共同使用大筋合意

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漁船放水事件をきっかけにフィリピンと中国の対立が再燃してきた。写真は2013年7月24日、フィリピン・マニラ首都圏の中国大使館領事部前で、南シナ海から「中国は去れ」とのプラカードを掲げ、フィリピン国旗を広げるデモ隊(EPA=時事)

 問題となった中国の行動は9日に起きた。フィリピンが実効支配している南シナ海のアユギン礁で、海軍の監視所となっている座礁船に、食料などの補給物資を運搬していた船舶が、中国の巡視船に航行を妨害され補給活動を断念していたことが分かった。これに対しフィリピン外務省は、在比中国大使を呼び出し強く抗議した。

 しかし中国外務省は、アユギン礁がある海域について、あくまでも中国が領有権を持っていると主張し、フィリピン外務省の抗議の受け入れを拒否。さらに中国外務省の報道官は、フィリピンの船が運んでいた物資に関して、「食料ではなくコンクリートや鉄筋を積んでいた」と主張し、フィリピン政府が、アユギン礁に新たな建造物の設置を計画していると指摘。2002年に合意した「南シナ海行動宣言」に違反していると批判した。さらに座礁船をめぐっては、「フィリピン政府が1999年に撤去を約束していた」と指摘し、約14年にわたってアユギン礁を違法占拠していると非難した。

 これに対しフィリピン外務省は、そのような座礁船を撤去する約束を否定した上で、「座礁船は1995年の中国によるミスチーフ環礁の不法占拠に対応して、行動宣言が調印される以前に監視所として設置したものだ」と、その正当性を主張。中国外務省の主張が誤りであることを指摘した。

 このような中国の威嚇的な行動に対し、同盟国である米国からも非難の声が上がった。米国務省のジェン・サキ報道官は、「緊張を高める挑発行為」と中国を批判した上で、アユギン礁は行動宣言が合意される前から、フィリピンが実効支配していたことを指摘。フィリピン政府にはアユギン礁で、「定期的な補給活動や人員交代をする権利がある」と述べ、妨害活動を正当化する中国側の主張を否定した。

 南シナ海をめぐっては、今年1月末にスカボロー礁近くの海域で、中国の巡視船がフィリピンの漁船に放水を行い追い出したことが発覚し、先月にフィリピン外務省が中国側に強く抗議し、領有権をめぐる緊張が高まっていたばかり。フィリピン外務省は、同海域がフィリピンの排他的経済水域内に位置し漁船の操業に問題はないとしているのに対し、中国外務省は、「中国の艦船は、海域の主権と秩序を維持するため正当かつ合理的な範囲で行動している」と同海域の領有権を一方的に主張し放水を正当化。フィリピン政府の抗議を受け入れない方針を示していた。

 こうした中国の脅威を背景に、フィリピン政府は米国との軍事的な同盟関係の強化に力を入れている。3月上旬に米ワシントンで行われた比米政府による米軍の巡回配備に関する交渉で、両国はこれまで認められていなかったフィリピン国内における軍事施設の共同使用や、米軍による施設の設置などを認める新協定に大筋で合意した。4月に予定されているオバマ米大統領のフィリピン訪問に合わせ、最終合意に達する見通しだという。

 フィリピン国内では、憲法により外国軍の駐留は禁じられており、米軍の活動拡大に反対意見も根強い。しかし、このところ急速に高まる中国の脅威に対抗するため、米軍の存在が必要との認識も高まっている。