中国艦船が比漁船に放水、フィリピンと中国が南シナ海で対立が再燃

 南シナ海の領有権をめぐるフィリピンと中国の対立が再燃している。両国が領有権を主張するスカボロー礁で、中国の巡視船がフィリピンの民間漁船に放水を加え、海域から締め出していたことが明らかとなったからだ。フィリピン政府の強い抗議にもかかわらず、中国政府は強硬な姿勢を続けており、関係悪化は免れない状態だ。(マニラ・福島純一)

比、沿岸警備隊を派遣へ

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漁船放水事件をきっかけにフィリピンと中国の対立が再燃してきた。写真は2013年7月24日、フィリピン・マニラ首都圏の中国大使館領事部前で、南シナ海から「中国は去れ」とのプラカードを掲げ、フィリピン国旗を広げるデモ隊(EPA=時事)

 フィリピン外務省は、スカボロー礁近くの海域で1月末に、中国の巡視船がフィリピンの漁船に対し放水を行っていたことをめぐり、2月25日に中国側に正式に抗議したことを明らかにした。フィリピン外務省は、同海域がフィリピンの排他的経済水域内に位置し漁船の操業に問題はないとしているのに対し、中国の外務省は、「中国政府の艦船は、海域の主権と秩序を維持するため正当かつ合理的な範囲で行動している」と主張し放水を正当化。フィリピン政府の抗議を受け入れない方針を強調した。

 フィリピン外務省によると、昨年に少なくとも9件の中国艦船による漁船への妨害活動が確認されているという。

 このような現状を受けフィリピン国軍は、スカボロー礁の防衛力を強化する目的で、同海域の管轄を北ルソン本部から、西部本部に移したと発表した。西部本部はスカボロー礁から遠い位置となるが、航空機を保有するなど領海警備に関して、より高い能力を備えているという。ガスミン国防長官は、このまま中国艦船による妨害活動が続くようであれば、同海域にフィリピンの艦船を派遣し、漁船の保護を行う方針を示しているが、その一方で両国の緊張をこれ以上高めないためにも、派遣される艦船は海軍からではなく、沿岸警備隊が適切であるとの考えを示している。

 スカボロー礁をめぐっては、2012年4月に中国とフィリピンの艦船が2カ月以上にわたって対峙(たいじ)し、緊張が高まったことがあった。この問題で経済制裁を行うなど強硬姿勢の中国側に対し、フィリピン側は緊張緩和のために艦船を撤退させたが、結果的に中国の実効支配の強化を許す結果となり今日に至っている。

 軍事力で中国に及ばないことを自覚するフィリピン政府は、領有権問題で直接的な対峙を避け、国連海洋法条約に基づき国際仲裁裁判所に提訴するなど、法的な解決を模索している。しかし中国側は当事国以外の干渉を認めず、あくまでも2国間の交渉による解決を主張する一方、着々と実効支配を強化するという行動を続けている。そのため同海域で領有権を主張する周辺諸国からの反発が強まっており、フィリピン政府内では、同じような問題を抱える、マレーシアやベトナムなどにも、国際仲裁裁判所への提訴を呼び掛ける動きも出ている。

 フィリピン政府は、国際仲裁裁判所に提訴する一方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国との間で、新たな建築物の設置など実効支配の強化を禁じる南シナ海での行動規範の早期策定を目指している。しかし中国の反対により関係諸国との足並みがそろわず、策定は難航している状況だ。

 またフィリピン政府は、国軍の近代化にも力を入れており、特に不足している航空戦力を増強するため、韓国から軽攻撃機「FA50」12機を購入することを決定した。早ければ来年にも導入が始まる見通し。フィリピン空軍は05年に、米軍などから提供されたF5戦闘機が老朽化で全機引退してから主力の航空機が不在で、空の守りに関して丸腰の状態が続き、国防上の大きな懸念となっていた。

 2月末にはマニラ湾において、フィリピンの沿岸警備隊が、日本の海上保安庁の協力を受け、領海侵犯や違法操業の密漁船を取り締まる合同訓練を行うなど、領海警備に必要な能力の向上にも力を入れている。