コメ問題でタイ貢献党窮地に

農民が反政府運動に加勢も

 タイ政府が農家からコメを市場よりも高値で買い取るコメ担保融資制度が危機的状況を迎えたことで、与党タイ貢献党が揺さぶられている。同制度はインラック政権の目玉政策の一つで、政権発足直後の2011年10月に導入された。この問題がタイ貢献党にとってシリアスなのは、扱いを間違えれば支持基盤となっている農民の離脱を意味するからだ。インラック首相の悪夢は、都市住民が主体となっている反政府運動に農民が加勢するようになることだ。(池永達夫)

未払い金への抗議活動拡大

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7日、バンコクで行われたデモで、農家への支援金を市民から受け取るタイのステープ元副首相(時事)

 タイ憲法裁判所は12日、2日の総選挙の無効を求めたタイ最大野党民主党の前下院議員の訴えを、証拠不十分で却下した。

 タイの最大野党である民主党は、総選挙が1日に全選挙区で投票できなかったこと、下院解散後にインラック政権が非常事態宣言を発令したことなどを理由に、総選挙が憲法に抵触する方法での権力掌握を禁じた憲法条項に違反したとしていた。

 だが結局、憲法裁判所は伝家の宝刀を抜き、タイ貢献党の息の根を止めるような判断は出さなかった。

 それでも、足元では反政府運動の火勢は衰えを見せず、さらにタイ貢献党の支持基盤であった農民からも火の手が上がるような情勢だ。タイ貢献党にとって野党勢力が主体の反政府運動が「前門の虎」なら、農民の反発は「後門の狼(おおかみ)」だ。

 コメ担保融資制度が機能不全に陥ったことで業を煮やしたタイ農民協会のプラシット会長は13日、「政府は来週中に解決しなければならない。さもなくば、農民は大規模な抗議集会を決行する」と威嚇した。

 既にコメ農家は、1300億バーツ(約4040億円)ともされる未払い金の支払いを求め、タイ各地で抗議活動を拡大している。タイ中部のコメ農家などが幹線道路を封鎖した他、バンコク郊外の商務省前でも農民グループが道路封鎖に踏み切った経緯がある。

 インラック首相率いるタイ貢献党が懸念しているのは、これまで身内同然だった農民が反旗を翻し、ステープ元副首相率いる反政府デモに加勢し合流することだ。

 そうなればタイ貢献党は、コーナーを取られたオセロゲームのように一気に出口のない負け戦へと政治状況が転がっていく。

 反政府運動を率いるステープ元副首相は「腐敗した政府から未払い金を徴収する農家を支援する」として、英国の伝説上の義賊ロビン・フッドになぞらえた「ロビン・フッド集会」を開催、バンコク中心街で農民の抗議活動資金を募るデモ行進をした。

 農民の反乱は、反政府運動の大きなエネルギーになることからステープ元副首相らは共闘を呼び掛けている。

 なお、コメ買い取り資金として政府が期待していたタイ産米120万㌧の輸出は今月上旬、買い取るはずだった中国側の国営企業が契約破棄の意向を伝えてきた。

 それでも政府が買い上げた現物のコメが、大量にあるのだから地道にそれを売却すればいいだけの話だが、どうも出すに出されぬ事情があるとされる。

 これまで最大野党の民主党などが、コメ担保融資制度の不正を追及している。具体的には高く買うようにしていながら、実際の買い取り価格を低く抑え、その差益を抜いてポケットに入れたという疑惑だ。政府は、保管しているコメの量や品質の偽装が表沙汰になることを恐れ、保管しているコメの売却に二の足を踏んでいるというのだ。

 こうしたことからプラシット会長は、「農民が代金を受け取れるよう政府はコメ担保融資制度で預かったコメに関する情報をすべて開示すべきだ」と情報開示を求めている。

 ところでほころびを見せるコメ担保融資制度は、タイの国力そのものをそぎ落としつつある。同制度下、政府が市価の約4割高でコメを買い取ったことで、タイ産米の価格は上昇し、国際競争力を失うことに陥って輸出量が激減。コメ輸出世界一の座から転落を余儀なくされている。