比、ワクチンで対中依存が加速
フィリピンが領有権を主張する南シナ海の排他的経済水域(EEZ)に、200隻以上の中国漁船が集結し緊張が高まった。これに対し外務省が中国を激しく非難する一方で、ドゥテルテ大統領は、国際仲裁裁判所の判断を「紙切れ」と表現するなど、中国への配慮が目立つ発言を繰り返し波紋を呼んでいる。
(マニラ・福島純一)
大統領 「南シナ海」軽視発言
中国漁船集結に外務省は抗議
フィリピンと中国が領有権を争う南シナ海に、200隻を超える中国漁船が確認されたのは3月上旬だ。フィリピン側の激しい抗議にもかかわらず、漁船は撤退するどころかその数を増し、5月に入り300隻にまで増加するなど、中国側はあからさまにフィリピンの抗議を無視し続けた。
この状況に業を煮やしたフィリピン外務省のロクシン長官は、5月上旬にツイッターで「消えうせろ」と投稿。南シナ海に居座る中国漁船への苛(いら)立ちを、外交では使用しない禁句を交えて爆発させた。
過激な発言で知られるドゥテルテ大統領も、さすがにこの発言に驚いたのか、中国への謝罪こそ指示しなかったものの、外交問題で禁句を使わないようロクシン氏に指示を飛ばしたという。結局、ロクシン氏は中国大使に個人的に電話し、不適切な言葉遣いに関して謝罪したと大統領府が伝えた。
しかし、その後もロクシン氏は、「新型コロナウイルス対策やワクチンの分野で中国との協力は欠かせないが、南シナ海の領有権をめぐる妥協はない」と発言。さらに、南シナ海の中国漁船問題に関して「看過できない」と抗議を続ける姿勢を示している。
一方、ドゥテルテ氏は、5月5日に行った国民向けの演説で、2016年に中国を相手取りフィリピン側が全面勝訴した南シナ海をめぐる国際仲裁裁判所の判断に関して、「われわれは勝利したが現実の国家間では何も起こらなかった」と述べ実効性がないことを強調し、「それはただの紙切れなので私はゴミ箱に捨てる」と切り捨てた。
これに対し、当時のアキノ政権下で外務省長官を務めていたデルロサリオ氏は、国際仲裁裁判所の判断は「有効かつ拘束力がある」と強調し、ドゥテルテ氏の「紙切れ」発言は、国民に大きな不利益をもたらす「国家の悲劇」であると強く批判した。また、このような自国に不利な発言は国益の放棄につながると警告した。
このほかにもドゥテルテ氏は、2016年の大統領選キャンペーンの公開討論で、有権者の漁師から南シナ海で中国監視船の妨害行為に対する対応を問われ、「南シナ海の島にジェットスキーで乗りつけフィリピン国旗を突き立てる」と返答し、対中圧力を約束したことに関して「単なる冗談だった」と述べ、「決して南シナ海の奪還を約束したことはない」と弁明した。
この発言に対し当時、公開討論会で大統領に質問した漁師は地元メディアのインタビューで、「冗談で大統領になったのか」と失望したことを明らかにした。
また上院議会で防衛委員会の委員長を務めるラクソン上院議員も、「大統領職は冗談ではなく重大な仕事だ」と述べ、このような発言は有権者を傷付けるものだと批判。元司法長官のデリマ上院議員も、「できない約束で国民を騙(だま)した」と述べ、次の大統領選挙ではドゥテルテ氏のような候補に投票しないよう呼び掛けた。
フィリピンでも新型コロナ用ワクチンの接種が進められているが、その大半は中国製ワクチンで占められているのが現状だ。米国製ワクチンを求める対象者も多いが、数が少なく順番待ち状態となっており、中国製ワクチンなくしては集団免疫の獲得は望めない状況にある。世界的なパンデミックにより、フィリピンの中国に対する依存は確実に加速している。
ドゥテルテ氏も5月上旬に、中国シノファーム製ワクチンの接種を受け親中ぶりをアピールした。しかし、同社製ワクチンが国内未承認だったことからドゥテルテ氏は謝罪し、寄贈された1000回分を中国に返却する意向を示した。

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