中国で鳥インフルの感染者急増、人から人の感染を警戒

 中国では鳥インフルエンザ・ウイルス(H7N9型)の感染者数が今年に入って急増して100人を突破、春節(旧正月=今年は1月31日)には鶏肉を食べる家庭が多い中国で感染のピーク期を迎えている。
(香港・深川耕治)

春節迎え生鳥取引を禁止

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1月28日、香港で、死んだ鶏をポリ袋に入れる当局者ら(AFP=時事)

 感染者数は1月27日現在、中国東部の浙江省で49人、南部の広東省で26人など中国の8省・市、香港の合計で103人に達し、うち22人が死亡している。

 H7N9型の鳥インフルエンザは昨年1年間で140人が感染し、うち48人が死亡。今年はわずか1カ月足らずで昨年の3分の2を超える急増ぶりだ。昨年3月に人へのH7N9型感染が初めて確認されて以来、中国本土での感染者は延べ247人、死者は69人となった。今年は1カ月足らずの間に猛威を振るっており、人の移動が最も多い春節の時期と重なったことで、中国衛生当局は警戒を強めている。

 隣接する中国広東省からの感染ルートで2002年11月から翌年にかけて新型肺炎(SARS)の深刻な感染被害を受けた香港では、鳥インフルエンザ対策に神経をとがらせている。

 香港に隣接する広東省深●(=土ヘンに川)市や同省江門市では1月26日に新たに各1人の新たな感染者が出た。30日には広州市内で1人感染し、死者も広東省では2人増えた。香港の高永文食物衛生局長は27日、香港・長沙湾に生鳥を供給している中国広東省仏山市順徳区の養鶏場のサンプルから鳥インフルエンザ・ウイルスが確認されたことを受け、香港での活鳥供給停止を発表。2月18日までの21日間、家禽(かきん)類卸売市場を閉鎖し、香港・長沙湾の卸売市場は感染地域と認めて場内の生鳥2万羽を処分すると発表した。全ての生鳥取引を停止し、地場農場からの活鳥出荷も禁止となり、香港で春節の食卓に並ぶ鳥料理は冷凍品を使用するしかない状態だ。

 中国浙江省衛生当局によると、1月30日、H7N9型の感染者数は同省で新たに4人増え、感染者数は60人に達した。広西チワン族自治区でも30日、56歳の農民女性が同自治区内で初めて感染し、福建省でも感染者が1人増えて感染者数は11人になった。中国各地では生きた鳥の売買が活発になる31日の春節(旧正月)を前に相次いで生鳥の取引の禁止が決定している。

 中国本土では今年に入って浙江省、広東省などで鳥インフルエンザの感染者が急増しており、農業省獣医局によると、養鶏業界の直接損失は200億元(1元=15円)に上るとしている。

 今回の鳥インフルエンザ拡大の問題点はSARSの教訓を生かせない中国衛生当局の対応にある。

 昨春、中国内で人への感染例が発生して以来、中国当局は「H7N9型は人から人への持続的な感染はない」との一点張りの立場だったが、27日の段階になって専門家の話として「限定的な人から人への感染が起きている」(新華社通信報道)ことをようやく認め、「人から人」への感染拡大防止に本腰を入れようとする段階になってきた。

 特に感染拡大が深刻化する浙江省では1月に入って杭州市内の家禽類を扱っている家族3人が感染し、うち父親が死亡した例から「父から母、娘への人から人への感染の可能性が高い」(浙江大学医学部の梁偉峰教授)との見解が中国各紙でも紹介されるようになり、警戒強化へ重い腰を上げたところだ。

 感染者数、死者数の把握についても、昨年11月以来、各省衛生当局が個別事例ごとには明示せず、毎月中旬、前月分を発表する方式に変更しながらも、個別のケースが完全網羅できず、経過動向が把握できない状態が続いていた。

 各省の衛生当局の発表では、感染者の確認後、感染者の大多数が「重体」と発表されても、その後の容体や経過については明示されない曖昧なケースが多く、死者や感染者数が未発表の部分が残されている可能性もある。SARSが猛威を振るった際、北京市の衛生当局で感染者数の隠蔽(いんぺい)が発覚し、透明性をできるだけ図る努力をするよう改善したはずの中国当局に課題を残す形となっている。

 今年の春節期間は中国人が中国内外を帰省などで、延べ約36億人が移動し、鉄道だけで2億5800万人の利用が見込まれている。中国政府の対応策次第では、鳥インフルエンザの「人から人」への感染拡大がさらに広がる懸念を残している。