比,新型コロナ変異種上陸で防疫強化

 フィリピン国内で新型コロナウイルスの変異種が確認され政府が警戒を強めている。海外からの帰国者のほか市中感染とみられるケースも確認されており、隔離期間の延長など入国者に対する水際対策の強化も検討されている。経済対策として期待されていた外出規制の緩和も見送られるなど、変異種の出現で再び緊張が高まっている。
(マニラ・福島純一)

山間部で変異種に12人感染
感染源不明、感染者200%増

 最初に国内で確認された変異種の感染者は1月にドバイから帰国した男性だった。帰国時の検査で変異種の感染が発覚し、保健省は同じ飛行機を利用した乗客160人の追跡調査に追われたが、幸いなことにほかに感染者はいなかった。

マニラ首都圏のショッピングモールで手を消毒する男性

マニラ首都圏のショッピングモールで手を消毒する男性

 世界で拡大する変異種の脅威を目の当たりにした政府は、年明けに変異種の感染が確認された国々からの渡航禁止措置を導入。渡航禁止の対象国は27日の時点で日本を含む36カ国にまで拡大されており、これらの国からの渡航は帰国するフィリピン人を除き、特別な許可がなければ認められない状況だ。

 年末に一時帰国し、この規制でフィリピンに再入国できなくなった外国人も多い。入国時には14日間の隔離期間と2度のPCR検査が義務付けられているが、変異種の拡大に伴い隔離期間の21日間への延長も検討されている。

 さらにルソン島北部の山間部にあるマウンテン州ボントックでは、住人12人が変異種に集団感染しロックダウンが実施される緊急事態となっている。当初、感染源は昨年12月末に英国から帰国したフィリピン人男性と考えられていたが、検査の結果、新型コロナのみ陽性で変異種に関しては陰性だった。

 濃厚接触者の追跡調査が行われているが、依然として感染源が不明でありさらなる感染拡大も懸念されている。同地域では今年に入り感染者が200%も増加しており、変異種が関係している可能性もあるとみて保健省が感染源の特定を急いでいる。

 政府は2月から外出制限の緩和を行い外出可能な年齢を10歳に引き下げると発表していたが、変異種の拡大を懸念するドゥテルテ大統領が急遽(きゅうきょ)、緩和を見送る決定を下した。フィリピンでは年齢による外出規制を導入しており、15歳以下と65歳以上の国民は病気治療などの緊急事態を除き自宅に留(とど)まっている必要がある。経済界からの要請もあり、政府は経済の活性化を図るため家族連れの外出を促進するという目的で年齢制限の引き下げを行うとしていた。

 人口が集中するマニラ首都圏では、専門家などから年末年始の人出の影響で年明けに感染者の急増が懸念されていた。しかし実際には1日の感染者は2000人前後と横ばい状態が続いており、懸念されていた危機的な状況は回避された。

 しかしその一方で、セブやベンゲット、パンガシナンなどの地方では感染者が40%以上も増加していることも専門家チームによって指摘されている。地方では医療施設が極端に少なく、容易に医療危機に陥るため状況はより深刻だ。変異種が確認されたボントックでも医療施設はすでに満床状態に陥っており、政府に早急な対応が求められている。

 昨年末から政府や自治体による製薬会社とのワクチン購入の契約が活発化するなど、国内ではコロナ禍から約1年を迎え感染の抑え込みに対する楽観的なムードも漂っていた。しかし、変異種の上陸により規制緩和の流れは一変し再び鎖国状態に陥る結果となった。政府は年内に国民の50%にワクチン接種を行う目標を掲げているが、最新の世論調査で国民の50%がワクチン接種を望まないという結果も出ている。

 フィリピンではデング熱ワクチンの大規模な接種が行われたが、後に過去に感染経験がある場合、重症化する副作用が発覚し接種を中止した経緯がある。そのため国民の間にはワクチン接種への疑念や抵抗感が広まっており、新型コロナ用ワクチンの普及を妨げる可能性もありそうだ。