台湾に春の到来を告げたチェコの上院議長

中華民国(台湾)立法院長 游 錫堃

 台湾の民主的で自由な政治体制に対する深い共感があるチェコは今夏、上院が50対1の議決で、ミッションを引率したビストルチル上院議長の台湾訪問を支持した。ポンペオ米国務長官はこれを称賛。また、70名の欧州議会や米仏独などの民主国家の国会議員も署名を集めて共同声明を発表し、ビストルチル議長の訪台を支持した。

 一方、中国の王毅外相はチェコに「高い代償を払わせる」と恫喝(どうかつ)したものの、欧州連合(EU)や独仏、スロバキアなどの政治リーダーが、これに反発し相次いで中共を非難した。

 こうして、ビストルチル上院議長が南方飛来のツバメのように、台湾に民主と人権の春のメッセージをもたらし、われわれに欧州だけでなく世界が変化しつつあることを理解させてくれた。

 過去数十年間、台湾は中共の武力による露骨な威嚇と言論による攻撃の対象となり、国際機関への参加を妨害された経緯がある。こうした露骨な外交空間への締め付けによる台湾の苦汁を、これまで世界の人々からあまり理解されていなかったように思う。

 例えば、新型コロナウイルスが世界に拡散された際、台湾は防疫の優等生だったにもかかわらず、いまだに中共の外圧にさらされ、世界保健機関(WHO)の蚊帳の外に置かれたままだ。

 中共の台湾威圧は最近、一層ひどくなる一方だ。中国外務省は台湾海峡の中間線はそもそも存在しないと公言、軍用機や戦艦、ミサイルをもって繰り返し台湾を威嚇し、武力で第1列島線に位置している民主の堡塁(ほるい)である台湾を封じ込め、意図的に紛争を起こしているのは衆知の事実だ。

 しかし、その結果、民主国家の覚醒を促すことになった。

 中共が「韜光(とうこう)養晦(ようかい)」「和平崛起(くっき)」のキャッチフレーズをカムフラージュとして使い、不公平な貿易を押し通し、知的財産権を盗み取る形で、迅速に世界第2位の経済大国に上り詰めた。

 しかし、中共は一方でチベットや新疆ウイグル、内モンゴル自治区、香港の強権統治を推し進め、台湾をいじめたりもした。また、宗教迫害や人権蹂躙(じゅうりん)は日常茶飯事となっている。

 さらに、好戦姿勢に転じた「戦狼(せんろう)外交」や巨大経済圏構想「一帯一路」で覇権拡張を図るとともに汚職を輸出、次第に自由世界をのみ込もうとしている。

 これはまるで21世紀の反民主主義、反人権の大寒波のようなものだ。

 その結果、国際社会は中共の真実の姿を見極めることができるようになった。

 チェコ民主化運動「プラハの春」の指導者アレクサンデル・ドプチェク氏はソ連の戦車に踏みにじられながらも、「彼らは花を散らせても、春の到来を阻止できない」という名言を残した。

 その意味では、中共の反民主主義、反人権の大寒波に立ち向かう中、春の到来が却(かえ)って近づいているという歴史の本流に目を向けるべきかもしれない。

 このことに世界が気付きつつあり、国際社会に新しい封じ込め対策が形成され始めている。民主国家同士にはこれからもっと多くの協力機会があると思われる。

 私は政界に入って、40年近くになるが、常に民主主義や人権基準を最高のものにしようと努力してきた自負がある。

 現在、立法院長として台湾と世界の絆を強める民主国家の国会交流に取り組むことを私の責務の一つだと自覚している。

 チェコ上院議長が台湾に欧州につながる道を開いてくれた。これからはわれわれが両手を広げ、世界の民主主義の友人を迎え入れることを目指したいと思う。(寄稿)