遊牧文化消滅と砂漠化の危機

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 中国・内モンゴル自治区で窮地に陥っているのは、言語だけではない。モンゴル民族が古来営んできた遊牧文化も、消滅の危機にさらされている。南モンゴルクリルタイ幹部によると、当局は遊牧民に対し、草原保護の名目で放牧禁止や事実上の強制移住の政策を取り、彼らを追い出した土地で畑作や炭鉱を営むという挙に出ているという。しかしもともと農耕に適さない内モンゴルの土地では、政策が始まって20年ほどたった今も環境破壊や砂漠化は進む一方で、改善の兆しは一向にない。

内モンゴル自治区の遊牧民(南モンゴルクリルタイ提供)

内モンゴル自治区の遊牧民(南モンゴルクリルタイ提供)

 さらにモンゴル文化とは切り離せないチベット仏教も、内モンゴルではすっかり影が薄くなっている。1980年代までに一掃された寺院は現在少しずつ再建されているものの、その数も読経に訪れる人も少なくなった。大切に守られてきた宗教的文化以上に、中華思想が強調された結果、モンゴル民族固有の思想はますます希薄化している。

 内モンゴルでは、天安門事件以前の80年代から学生運動が行われてきたが、現在同じように弾圧を受けているウイグルやチベットに比べ、注目度は高くない。

 その理由を同幹部は「表立って活動している活動家が多くないからだ」と声を落とす。多くのモンゴル民族が自治区の在り方に不満を持っているが、当局による反撃を恐れて政治的な活動や独立運動に加わることは少ない。親が子に「政治だけには参加しないで」と教えるほどだという。実際に、遊牧民の権利を守る活動をしていた女性が当局に監視され、自宅軟禁状態になるということも起こっている。

 言語の消滅は、その言葉に染み込んだ民族の思想や文化の消滅を意味する。3年前に同様の政策が行われたウイグルでは、すでにウイグル語教育が停止され、中国語での教育に切り替わってしまった。中国政府にとっての成功例であり、それを内モンゴルでも実行しようという形だ。

 自らの言語と文化で生活する権利がない、そんな内モンゴルにおける現状を打破する方法について、同幹部は「独立しかない」と話す。中国側の名付けた「内モンゴル」ではなく原語の「ウヴル・モンゴル」の意味により近い「南モンゴル」として独立を果たすことが、内モンゴル人がモンゴル民族として生き残る唯一の道だと語気を強める。そして米トランプ政権が「中国共産党政権」という表現を公に用い、強硬な対中政策を進める今、「その絶好の機会が訪れている」ともみる。

 一方日本に対しては、「かつて南モンゴルの一部は満州国に属しており、日本の植民地だったということになる。英国は今、香港人に対して市民権取得の道を開いているが、日本も過去のモンゴルとの関わりを忘れず、同じように支援してくれることを期待している」と結んだ。

(サンデー編集部・辻本奈緒子)