信用できない中国の統計データ


 新型コロナウイルスによるイタリアの死者は23日、5476人、感染者は5万9138人になった。一方、中国の死者は3261人、感染者は8万1093人となった。死者数でイタリアが中国を上回ったことで、多くのメディアはイタリアの惨状報道に忙しいが、焦点となるべきは中国の実体だ。

 メディアのチェック機能が働く民主国家のイタリアでは当局のデータを疑う必要はないが、伝統的に隠蔽(いんぺい)体質が内在する中国ではデータをうのみにするととんでもないことになりかねない。

 発生源となった武漢市を1月23日に封鎖して、2カ月が経過する中、中国政府は3月18日、武漢市を含む湖北省全体で新規感染者がゼロになったと発表した。その上で24日、武漢封鎖を4月8日に解除する発表を行った。だが、武漢住民の大半は半信半疑とされる。武漢市では感染が疑われる人が病院に行っても、検査で感染が確認されることはなく、恣意(しい)的データが作り上げられていると疑われるからだ。

 この問題では、内部から良心の告発者も出てくるようになった。

 共同電は19日、10日に行われた習近平国家主席の視察に合わせ、症状の残る多数の患者が隔離を急遽(きゅうきょ)解除され、一部の感染検査も停止されていた事実を報道した。隔離施設の医師が、武漢市の状況改善は欺瞞(ぎまん)だと告発しているのだ。医師は、習氏への配慮から対策成功アピールのため治療中の患者数を意図的に減らしていると指摘したとされる。政府の武漢、新規感染者数ゼロは「信頼できない」と断言する。

 党内にも習指導部の責任を問う声が存在する。

 北京大学の桃洋(ヤオヤン)国家発展委員長は15日、中国当局の対応を批判する論文を北京大ホームページで掲載。桃氏は、「新たな感染者を出すことで処分対象にされてしまう」ことで当局者が萎縮している事情があるとして、現場の地方政府に自主性を与えるべきだと主張している。

 習近平国家主席の母校・精華大でも許章潤法学院教授が2月、「感染拡大を隠蔽して先延ばしするのは、ただ『核心』(習氏)の世の繁栄と謳歌(おうか)だけのためであり、民衆のことなど心の片隅にもない」との文章を発表した。その後、許氏は教授職を解かれ自宅軟禁となっている。

 今回の新型コロナの構図は、中国当局の情報 隠蔽から始まったSARS(重症急性呼吸器症候群)と同じだ。

 新型コロナでも中国は当初、「人から人への感染はない」と断言していた。このウソを信用せず、台湾はいち早く中国との人的往来を断ち切ったことで感染拡大を防ぐことができた。

 なお、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は22日、2月末時点で中国の新型コロナウイルス感染者4万3000人以上が、「無症状」を理由に感染者の統計から除外されていたと報じた。2月末時点の中国の感染者は公式発表では約8万人だが、これら無症状者を含めると12万人を超えていた計算となる。

 中国国家衛生健康委員会は2月、検査で陽性でも症状がなければ「病原体を広げる確率は低い」と見なし、感染者にカウントしないとの判断基準を示している。

(池永達夫)