中曽根首相訪韓 韓国語挨拶で感動呼ぶ
日韓国交正常化50年 「嫌韓」「反日」を越えて(3)
韓国の諺に「カヌン マリ コワヤ オヌン マリ コプタ(こちらが相手にやさしい言葉を掛ければ、相手もこちらにやさしい言葉を返すという意)」というのがある。日韓関係でこの諺がピッタリ当てはまる出来事が1983年の中曽根康弘首相(当時)の訪韓だ。
首相が就任後の最初の訪問国に韓国を選ぶのは初めてのことであり、戦後、日本の首相が訪韓するのも初めてだった。韓国が日本に要請した経済協力借款をめぐり悪化していた両国関係を改善させるため、中曽根首相は青瓦台(大統領府)で行われた公式晩さん会のスピーチで、冒頭と締めくくりの2カ所を韓国語でしゃべった。
「ヨロブン、アンニョンハシムニカ?(皆様、こんばんは)」
会場は一瞬、驚きに包まれ、同席した数百人の来賓の中には涙を流す人もいたという。首相訪韓中、ソウル中心部に歓迎の意を表す数多くの日の丸がはためいた。
一方、2013年2月の朴槿恵大統領就任式。日本から出席したある大物閣僚が朴大統領に「数十分にわたって対日政策の“お説教”をした」(日韓関係筋)ことが朴大統領の逆鱗(げきりん)に触れた。数日後の独立記念日演説で朴大統領は「加害者と被害者という立場は千年たっても変わらない」と述べ、日本側を驚かせた。「売り言葉に買い言葉」とはこのことだろう。
日本側が投げ掛けた言葉次第で韓国側の反応がガラリと変わる――。この50年間はその繰り返しだったと言っても過言ではない。
また毎年同じ時期に巡ってくる記念日や行事のたびに日韓関係は揺れてきた。日本側では竹島の日(2月22日)、歴史教科書の検定(3月)、靖国神社の例大祭(春季4月、秋季10月)、終戦記念日(8月15日)などがあり、これに韓国側が神経を尖(とが)らせてきた。韓国側も独立運動を記念した三一節(3月1日)と光復節(8月15日)には決まって大統領が演説し、批判的な対日メッセージが盛り込まれることが多い。
今、韓国側では日韓基本条約を見直そうという動きがある。その中心にいるのは、条約が結ばれた65年当時、学生として条約反対運動に身を投じた人たちで、「65世代」と呼ばれている。
いわゆる従軍慰安婦問題をはじめ日本との懸案がなかなか解決しないのは、そもそも請求権の放棄などを付随協約とする日韓基本条約が足かせになっているためで、この見直しを日本に要求しない朴政権には問題がある――というのが彼らの主張だ。2国間の条約を一方的に見直すのは現実味に欠ける話で、野党陣営が政府・与党を攻撃する材料として利用している面が多分にある。
だが、これに刺激された日本の保守世論が反発する恐れがあり、日韓関係の新たな火種になりかねない。
安倍晋三首相と朴槿恵大統領の首脳会談がいつ実現するのか見通しが立たない中、50年の節目を評価するメッセージの発信が必要だという声も出始めた。比較的中立的な立場から日韓両政府に意見を言ってきた韓国政府系シンクタンク世宗研究所の陳昌洙・日本研究センター長は、その構想を次のように明かす。
「今まで国際社会の中で日韓がどのような役割を果たしてきたのか、反省すべき点や今後の課題なども含め、全体として50年を評価する『50年評価委員会』の設置を両国政府に呼び掛けるつもりだ」
(編集委員 上田勇実)