新ビジネスモデル 第三国で共同の「国造り」

日韓国交正常化50年 「嫌韓」「反日」を越えて(7)

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昨年2月のミャンマー視察で「ティラワ工業団地」の造成予定地を訪れた日韓両国の政府・企業関係者(写真提供・日韓産業技術協力財団)

 「両国国民同士の交流への意欲が本当に冷え切っているとは私には思えない」

 昨年11月、都内で開かれた日韓間の観光促進を話し合うシンポジウムで、経団連の大塚陸毅副会長はこう述べた。

 日韓関係の悪化を受けて広がる日本人の「嫌韓感情」や円安のあおりで、日本人の韓国訪問客数はこのところ減少傾向が続いている。昨年1年間で270万人を突破し、過去最多を記録したとみられる韓国人の日本訪問客数とは対照的だ。

 これまでにもリーマン・ショック後の為替レート変動や東日本大震災などの影響を受け、日韓間の相手国訪問者数は増減を繰り返してきたが、近年は「政府間の外交の低迷が暗い影を落としているのは否めない」(大塚副会長)。日本で10年ほど前に始まった韓流ブームやその後のK―POP人気もピークを過ぎ、ソウル明洞や南怡島などの観光スポットは日本人に代わり中国からの観光客で溢れ返っている。

 しかし、それでも経済的な手頃さ、距離の近さ、関心の高さなどに支えられ、日本人にとって韓国観光は依然として魅力的に映っている。

 両国業界関係者からは「2018年の平昌冬季五輪、2020年の東京夏季五輪を活用した共同プロモーションをぜひやりたい」(梁武承・韓国旅行業協会会長)という“平昌・東京効果”への期待も多く聞かれる。

 観光業界に限らず、産業界全体にとって日韓で立て続けに開催される五輪は、ヒト・モノ・カネの往来が活発化することが予想されるビジネスチャンスだろう。

 「ミャンマーの国づくりにどう貢献できるか、実際に現場に行ってもらいビジネスチャンスの芽を感じてもらった」

 アジア最後のフロンティアといわれるミャンマーのインフラ整備に向けた昨年2月の視察。その際、日韓両国の経済人約50人を引率した日韓産業技術協力財団の木村慎一郎・事業企画部長はこう振り返る。

 ミャンマーは軍政が終わってまだ数年しかたっておらず、あらゆる分野で経済開発が必要な国だ。視察では工業団地の見学をはじめ軽工業や救命・医療での日韓企業連携の可能性が模索された。お互い金儲けだけでなく、経済協力開発機構(OECD)加盟国として途上国支援の責務を果たそうという「未来志向の新しい日韓経済協力モデル」(木村氏)だという。

 日韓は共に資源に乏しい経済構造をもつ。また少子高齢化社会という共通の課題にも直面している。第三国での共同事業のみならず、海外での安定的な資源確保や介護技術の連携など、日韓経済協力は多方面に渡ろうとしている。現場にいる日韓双方のビジネスマンたちは、とっくに未来志向型だ。

 「歴史認識などをめぐってお互い何を思っているのか本音の部分を理解した上で、それをぐっと呑み込んでビジネスはビジネスとして進めていく大人の付き合い。こうして経済協力を積み上げていけば、自ずと信頼も築いていける」(木村氏)

 日韓経済協力が心理的に「次の50年」に向かっていけるよう、政治指導者たちは真剣に考えなければならない。

(編集委員 上田勇実)