危うい韓国の中国接近 日米が「韓国抜き」を検討
日韓国交正常化50年 「嫌韓」「反日」を越えて(5)
日本の安全保障を審議する内閣機関である国家安全保障会議、通称「日本版NSC」。ここで昨年、中国への対応と関連し、ある方針が検討された。韓国抜きで日米だけで政策のすり合わせを行おうというものだ。
「朴槿恵政権は日本との首脳会談に応じず、一方で中国に接近しているように映る。韓国が、日米が考えるような対中政策に応じるつもりがないなら、いっそのこと韓国抜きで事を決めようという声が日米双方から上がっている」(太田文雄・元防衛庁情報本部長)
複数の関係者によれば、実際にNSC内で対中政策をめぐり「韓国抜き」の必要性を検討すべきだと主張する人もいたという。
これに敏感に反応するかのごとく韓国が動いた。韓国は李明博前政権時、北朝鮮による武力挑発がエスカレートしていることで、韓半島有事の際の指揮権である戦時作戦統制権を米軍から韓国軍に移譲する時期を一度延長するよう米国に申し入れ、これが受け入れられたが、昨年10月の定例安保協議会で、移譲時期を予定されていた今年12月からさらに再延長させることで米国の合意を取り付けた。
「日米が韓国抜きで進むことに韓国が危機感を募らせている証拠」(太田氏)だろう。
北東アジア安保をめぐる日米韓の枠組みが機能しなくなることを望んでいるのが、米国を中心にしたこの地域の同盟関係にくさびを打とうとしている中国だ。昨年11月、中国が韓国と自由貿易協定(FTA)を締結することで大筋合意したのも、経済的メリットよりもこうした政治上の計算からだとの見方もある。
地域の全体像を見れば、明らかに「中国とは距離を置くのが良識的な判断」(西川吉光・東洋大学国際地域学部教授)だが、自ら選択した中国接近で、中国が「漁夫の利」を得ていることへの“罪悪感”は、今の朴政権にほとんど感じられない。
むしろ韓国の識者たちは、日本側が指摘する「朴政権の中国接近説は誤解」と口を揃(そろ)える。「朴政権には中国と一緒に日本バッシングをしようという考えはない」「将来の南北統一に向け戦略的に中国との関係を強化しているだけ」というのが実情だいう。
ただ、これらの指摘が正しかったとしても、日本との関係が悪いあまり「中国に近づき過ぎているというイメージを日本に与えてしまったことは朴政権の失敗」(陳昌洙・世宗研究所日本研究センター長)と言える。
韓国は現在、米国が開発した弾道ミサイル攻撃を防ぐ高高度ミサイル防衛体系(THAAD=サード)の導入をめぐり、中国の反発に遭っている。
サードは、現在実戦配備されている地対空ミサイル、パトリオットPAC―3に代わる弾道ミサイル迎撃システムで、高度50㌔以上の高さで目標物を撃ち落とすため、高速で飛来してくるミサイルへの対応が可能なほか、地上への被害も出にくいとされる。
対北朝鮮抑止へ強固な安保を重要視する朴政権にとって、サード導入は米国だけに頼らない独自のミサイル防衛体系の総仕上げの意味をもち、米国側の期待も高い。だが、中国はサードの射程の長さやレーダーが広範囲に及ぶことから「中国が目標だという認識を持っている」(邱国洪・駐韓中国大使)などとして難色を示している。
韓国のサード導入は「地域安保で日米との連携の枠組みに踏みとどまるのか、それともそこから軸足を中国側に移すのかを問う試金石」(日韓防衛筋)とも言える。
(編集委員 上田勇実)