経済再生の切り札に エコ住宅400万戸目指す

環境先進国フランスの挑戦(上)

 フランスでは今年11月30日から12月11日まで気候変動枠組条約の第21回締約国会議(COP21)がパリ郊外で開催される。そこでは京都議定書以来となる新たな温暖化防止の国際合意を採択することが期待されている。フランスは同会議のホスト国として、環境先進国であることを国際社会に示す絶好の機会と捉えている。(パリ・安倍雅信)

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COP21のホスト国として京都議定書以来となる国際合意に意欲を見せるフランスのオランド大統領=9月7日、パリ(EPA=時事)

 フランスの環境政策の特徴は、同国の長期にわたる景気低迷、高い失業率解決のための経済再生の切り札と位置づけられていることだ。無論、現在のオランド仏政権の支持率低迷の最大要因が景気低迷にあることを考えれば効果を上げているとは言えないが、環境政策が最重要課題であることは間違いない。

 それを象徴するのが、2007年10月にサルコジ仏大統領(当時)が提唱して始まった円卓会議、「環境グルネル会議」だ。「グルネル」とは同国が左翼学生運動により社会的危機に陥った1968年に混乱を収拾するために本格的協議を行った場所が、パリのグルネル通りだったことに由来する。サルコジ政権の環境問題への思い入れの深さが命名に繋(つな)がっている。

 フランスでは2003年夏の熱波で1カ月間猛暑が続き、高齢者を中心に1万4800人が死亡する悲劇が起きた。また、刈り入れを待つぶどう畑にも壊滅的被害を与え、ワイン産業にもダメージを与えた。このことが環境グルネル会議の設立に影響しているとも言われている。今年も7月に一時猛暑が続き、フランス人も異常気象に危機感を抱いている。

 2012年に発足したオランド政権は、同年9月に開催された環境会議で「エコ住宅の拡大」「原子力発電に関する取組み」「再生可能エネルギー製造」「エコカー普及」などの方針を打ち出した。

 太陽光発電などエコ住宅を任期中に400万戸にするための整備工事支援など、それぞれの項目の具体的目標値などが示された。オランド大統領は演説の中で「環境への取り組みは、義務であると同時に雇用創出のための切り札」であることを強調した。

 同時に5年前に始まった環境グルネル会議の達成目標の中間報告も行われ、同会議が2009年に建築、都市計画、交通・輸送・エネルギーなど各分野で定めた2020年までの達成目標数値について、達成が困難な分野が多いことが報告された。(2009年、「環境グルネルの実行に関する計画に関わる2009年8月3日付けの法律」通称=環境グルネル1法などが制定された)

 その一つが大気汚染の問題であり、二酸化炭素(CO2)排出量問題だ。全体としては目標値に向かって着実な進展があるとしながらも、例えば「貨物輸送における、車両及び航空機以外の輸送割合」を2020年目標で約25%としているのに対して、2012年時点で約12%と半分に止まった。

 さらに「年間に販売された新車の二酸化炭素の平均排出量」も目標達成には不十分という報告だった。それから3年が経ち、おりしもドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン社がディーゼル車の排ガス検査でデータを改竄(かいざん)するソフトを組み込んでいたことが米国で発覚し、フランスでも大きな衝撃が走った。ロワイヤル仏環境相は即座に抜き打ち検査を行うよう指示している。