都市のエコ改造 EVカーシェアにも本腰

環境先進国フランスの挑戦(中)

700

9月27日、温室効果ガス削減を呼び掛ける「ノーカーデー」が実施されたパリのシャンゼリゼ通りで、道路を埋め尽くす歩行者ら(AFP=時事)

 フランスでは現在、ディーゼル乗用車が全体の新車登録台数の6割強と欧州一高い。この20年間で普及が大きく進んだ。多くのディーゼル車ユーザーが「燃費やエンジンの耐久性があり、排ガス規制もクリアしている」と購入の動機を挙げている。この10年間でCO2を大量に排気する古い乗用車は、ほぼ姿を消している。

 昨年3月、大気汚染対策の一環として、パリ市を含むイル・ド・フランス首都圏で3日間、地下鉄や郊外電車、バス、パリ市内の貸自転車ヴェリブや貸電気自動車オートリブの無料乗車を実施した。さらにパリ市内への車の乗り入れを規制する試みもあり、昨年5月には、大気中の汚染物質であるPM10や二酸化窒素を減少する成果を出した。

 フランスでは、大都市での貸自転車、貸電気自動車、路面電車(トラム)などの導入が進められている。とくにパリ市などの大都市が、温室効果ガスのない電気自動車(EV)のカーシェアリングシステム導入に取り組んでいる。つまり、フランスは都市のエコ改造に本気で取り組んでいるということだ。

 全体としては都市エコ改造をパリ市民は支持しているように見えるが、郊外に住む住民の中には「パリ市内へのアクセスは、ますます不便になっている」(パリ市内で勤務し東郊外ノジャンに住む45歳のサラリーマン)「経済活動に悪影響を与えている」(パリ市内のコピー機器メーカーの38歳の営業マン)などの批判の声も聞かれる。

 環境グルネル1法は、目標として「次世代のニーズを損なわない持続可能な成長の実現」を掲げている。具体的には、温暖化ガス削減と生物多様性の呼び込みによる都市のエコ改造、都市住民の健康保護や廃棄物削減によるグリーン経済化ということになる。

 現在、フランスでは19都市がエコ・シテ(シティーの意)に指定され、総額7億5000万ユーロ(約1000億円)の補助金や融資を受け、エコ改造に取り組んでいる。さらにエコ・カルチエ(地区の意)の指定が進んでおり、都市よりは小規模の地区での取り組みも進められている。

 フランスでは現在、低家賃住宅(HLM)などの公共住宅の断熱性能向上、公共の場の照明のLED化、水道水の節水のための器具普及などを積極的に行い、大きな成果を上げている。さらに生物多様性の取り込みのため、公園などの生態緑地の造成を進めており、大型商業施設の屋上の全面緑化、パリのエッフェル塔近くのケブランリー美術館で始まった建物壁面の緑化も拡大している。

 パリに次ぐ大都市であるリヨンでは、オフィス街で熱と電気を一元管理するシステムや、地域全体に再生可能エネルギーを最大限効率的に活用するシステムの導入などが進んでいる。そこには日本企業も参加しており、同市がめざすスマート・シティのプロジェクトが進行中だ。

 無論、町には路面電車が行き交い、貸自転車ヴェリブや貸電気自動車オートリブが配備され、電気自動車の充電場所も整備されている。フランスは都市ごとに独自性を出した政策が実施される例が少なくない。環境政策においても、独自性の強いプロジェクトが各地で推進されている。

 一方、フランスは今、環境先進国をめざすだけでなく、原発同様、都市のエコ改造のノウハウを途上国へ輸出することも視野に入れている。特に途上国の人口の多い大都市では今後、確実にニーズがあり、フランスは国内のエコ改造を充実させながら、その海外輸出も念頭に経済再生にも利用しようという考えだ。

(パリ・安倍雅信)